河井孝仁のシティプロモーション日記とか

メディアとしてのイベント・着地点としてのイベント-『広報会議』2012年9月号

 ここのところ、人々の行動や意識を変えていくためにどのようなメディア活動が必要なのかを改めて考えています。メディア活動というとわかりにくいかもしれません。どのようなメディアをどのように利用することで、人の気持ちを一つ一つ進めていけるのかという意味です。

 商品やサービスの購入に向けて、人の行動や気持ちがどう変化するのかについては、多様なモデルが提示されています。E・K・ストロング氏が述べたAIDA(注意→関心→欲求→行動)モデル、S.R・ホール氏が提唱したAIDMA(注意→関心→欲求→記憶→行動)モデル、広告代理店の(株)電通が登録するAISAS(注意→関心→検索→行動→共有)モデル、マーケティング企業である(有)アンヴィコミュニケーションズが示したAISCEAS(注意→関心→検索→比較→検討→行動→共有)モデル、佐藤尚之氏が述べられたSIPS(共感→参加→確認→共有・拡散)モデル。

 それぞれ、商品やサービスの種類、購入場面、インターネットやソーシャルメディア利用の有無などによって、適用できる範囲が異なると考えられますが、いずれも、人の気持ちがどのように動いていくのかという記述モデルということができるでしょう。

 モデルには記述モデルと別に戦略モデルがあります。記述モデルが「どうなっているのか」を示すことに対して、戦略モデルは「どうすればいいのか」を示すモデルということができます。

 AISASもAISCEASも記述モデルだと考えられます。しかし、広告代理店やマーケティング企業としては、そうした記述モデルを基に、企業として何をするのかという活動があるのでしょうから、実は戦略モデル的に利用されているとも考えられます。たとえば、顧客に「貴社の商品はターゲットとなる40代男性富裕層に関心は持ってもらっているようですが、詳細の検索までは至っていないようですね。そこで、我が社の・・・」というコンサルティング活動が行われるのではないかという意味です。

 私は、そうした記述モデルと戦略モデルの混乱(というほどではないかもしれませんが)が起きないように、改めて戦略モデルを提示してみようと思っています。今のところ考えているものとしては、LAISLA+Sモデルがあります。

 LAISLA+Sは傾聴→認知獲得→関心惹起→探索誘導→着地点整備→実行促進に共有支援を加えたものです。 確認していただければわかるように、人の行動や気持ちがどう動くのかというより、どう動かすのか、そのための準備をどのようにするのかという表現になっています。いわば、AISASのような記述モデルの主語が「顧客」であることに対して、LAISLA+Sという戦略モデルの主語は「広報担当者」になっているわけです。

 まず、広報担当者は自らの企業や組織、商品のポジションや顧客の状況を知るための「傾聴」を行う。
 次に、広報担当者は、顧客に商品やサービスを知ってもらうための「認知獲得」を行い、さらに、その商品やサービスが顧客自身に関わりのあるものだという思いを強めてもらうための「関心惹起」の方策をとる。
 その次に、広報担当者は、関心を持った顧客がスムーズに詳細情報を手に入れられるための「探索誘導」を行う。
 広報担当者は、探索に来た顧客を受け止める的確な「着地点整備」を行っておくことも求められる。
 着地点では広報担当者が、顧客が比較・検討し、購入や利用、参加を決断するための「実行促進」の仕組みを用意する。
 そして、広報担当者は、顧客の認知→関心→探索→比較→検討→行動という各段階で情報拡散・共有を行ってもらう「共有支援」の施策をとる。

 つまり、広報担当者が、傾聴→認知獲得→関心惹起→探索誘導→着地点整備→実行促進+共有支援のそれぞれの場面でどのようなメディアを利用するか、何をすることが望ましいのかを明らかにする、考えやすくする戦略モデルを示したいと思っています。

 私は、広報についての研修講師を、中央省庁や、自治大学校のような全国横断的な自治体職員研修組織、都道府県などの広域自治体や、市町村などの基礎自治体、さらにNPOなどでさせていただくことがあります。

 そうしたときに、先に述べたLAISLA+Sモデルを紹介し、広報担当者が、どんなメディアを用いることが適切か、何を行うことが必要かについて意見交換することが少なくありません。また、具体的な広報目的を設定し、その目的を実現するための広報施策をワークショップという形で議論し提示してもらうというパタンの研修もよく行います。

 先日は静岡県島田市で、LAISLA+Sのモデルを利用して「近隣大都市の賃貸家屋に住み、小学生以下の子どもがいて世帯内のいずれもが35歳までの核家族世帯に、島田市への定住促進を図るための広報施策」を4~6人のグループで検討してもらうワークショップを行いました。

 その際に、とても興味深い発表をしてくれたグループがありました。まず、そのグループは島田市内の分譲住宅地にある子ども会と連携して定住促進を図ろうというコンセプトを立てます。それぞれに地方紙や地元放送局を利用したり、列車内の交通広告を用いたりなどのメディア活用を提案してくれました。なかでも、私が思いつかなかった提案としてイベントを着地点メディアと考え、整備するという発想がありました。

 LAISLA+Sにおける着地点整備は、一般的には、行政などの公式サイトによる信頼性を提供できる着地点と、ソーシャルメディアによる個別の内容への信憑性の裏打ちを可能とする着地点の組合せによって成立すると考えています。この際、信憑性の裏打ちについてはブログポータルとか、ツイッターのつぶやきを集めたTogetterや、FacebookなどのSNSの活用が思い浮かぶのですが、島田市のグループでは近隣大都市の若年核家族世帯と島田市内の分譲住宅子ども会の交流イベントを着地点として用意しました。

 確かに、交流イベントでは既に島田市に暮らし、子育てをしている人々から島田市のいいところやまだまだ残念なところを直接聞くことができます。あわせて交流イベント自体に島田市役所が関わっていることから一定の信頼性は確保されています。そうした信頼できる舞台で、個別の状況について聴くことができ情報の信憑性を確認できる着地点メディアとしてイベントを考えることは確かに優れた発想だと思い至りました。

 このことはイベントの成功とは何かということについても考えるきっかけを与えてくれたと思います。イベントを目的として捉えてしまうと、参加者は何人だったか、せいぜい参加者の満足度はどの程度だったかを評価基準として考えてしまいがちです。しかしイベントを着地点メディアとして考えるのであれば、そのイベントが次のステップである参加者の実行促進にどのようにつながったのかを評価する必要が生まれます。

 改めて考えればこと新しい発想ではないように思いますが、少なくとも私にとってはちょっと忘れかけていたことでしたので、とても新鮮でした。

 こういう機会があるので、現場の皆さんとのディスカッションはとてもいい機会です。これからもしばらく、このLAISLA+Sという戦略モデルを鍛えながら、多くの皆さんと地域広報の重要性について考えていきたいなと思っています。
  1. 2012/10/08(月) 09:27:03|
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河井孝仁

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