河井孝仁のシティプロモーション日記とか

自治体とゲーム-「未来自治体」の取り組み-『広報会議』2012年7月号

 最近、ゲーミフィケーションということばが注目されています。ゲーミフィケーションとは、深田浩嗣さんによれば「ゲームが持つ、プレイヤーを活性化させるノウハウを、ゲーム以外の領域に使うこと」とされています(注)。

 このノウハウに関わるキーワードに「課題・報酬・交流、数値化、可視化、競争と協力、非専門家による易参加性」というものがあると考えます。

 いいかえれば、ゲーミフィケーションが十分に機能するための条件とは次のようなものではないでしょうか
 課題が用意され、それを解決するために自分だけではないネットワークの力を活用し、解決できたときには報酬が与えられるしくみがあること。どれだけ進捗しているかを参加者が理解しやすくするためにデータが示され、それが誰にでも見えるようになっていること。競争する環境があることで「勝ちたい」というインセンティブが働くこと。勝つためにはひとりだけでは不十分である状況を準備し、協力の必要性を意識させられること。専門家でなくてもこうしたレースに参加できることで多くの人の関心を呼び起こせること。

 実際にもゲーミフィケーションの考え方が、安全運転を促すしくみや、エイズ治療に関わるタンパク質の構造解明に役立ったとの紹介がされています。

 地域には多様な課題があります。これらの課題をゲーミフィケーションという考え方で解決に近づけられないでしょうか。そうした思いを持って事例を探していたときに「未来自治体」という取り組みに思いあたりました。

 未来自治体は、NPO法人ドットジェイピーが提供する、学生による自治体予算の提案を内容とするワークショップイベントです。ドットジェイピーは、学生が議員とともに長期間にわたって働き、多くの経験を得るための議員インターンシップなどを主な事業内容としています。それ以外にも政策提言や自治体ブランドコンサルティングなどの事業を行っています。2011年には大学生による国家デザインコンテスト「未来国会2011」という事業も「国家予算をあなたが作る。」というキャッチフレーズのもとで実施されました。

 この未来国会の取り組みについて、ドットジェイピーの理事であり、千葉県流山市議会議員として議会改革に積極的に取り組んでもいる松野豊さんから、直接お話を伺ったことがあります。そのとき、私からは「国家デザインが重要なことは当然ですが、より身近な地方自治体をどのように経営していくのかについて、学生や高校生などに考えてもらう機会もあるといいですね」と申しあげました。

 ほんとうはもっと多様なきっかけがあったのだとは思いますが、私は自分勝手に、松野さんが、そうしたつぶやきのような私のことばを掬いあげて、十分な企画にしてくれたものが未来自治体だと思っています。

 そして、未来自治体の取り組みは実際に形になり、未来自治体2012トライアルとして、松野さんの地元、流山市を対象に実施されました。4月22日には決勝大会が行われ、井崎義治市長と池森政治商工会議所会頭も出席されたなかで、大学生グループ3チームが30年後の流山市のあるべき姿と、その基礎になる10年後の流山市予算案を発表しました。参加者による投票の結果、そのうちの「チーム北島」が優勝をおさめました。

 未来自治体の取り組みは、単純に夢を示すものでも、個別事業を提案するものでもありません。自治体予算の成り立ち及び現状を十分に学習し、10年後の地域状況を見通して歳入予算を見積もり、その予算を踏まえて30年後のあるべき姿につながる政策・事業を優先順位を付けて検討、発表し、評価を受けるものです。これは責任という点で重要な意味を持っています。夢だけを語り為政者に任せる、個別分野の提案だけにとどめ全体配分は行政に委ねるということではない、市民が自治体全体について責任をとるという発想が生まれてくる取り組みだと考えます。

 その内容を見せていただくと、これは地域の課題を解決するために取り組まれるゲーミフィケーションとして考えられるのではないかと思いました。

 まず、第一の条件である「課題が用意され、それを解決するために自分だけではないネットワークの力を活用し、解決できたときには報酬が与えられるしくみがあること。」について、未来自治体のプロジェクトでは「30年後の流山市のあるべき姿・10年後の流山市予算」という課題が提示されます。最も的確に解決できたチームには公共の場での表彰という報酬が用意されています。

 次に「どれだけ進捗しているかを参加者が理解しやすくするためにデータが示され、それが誰にでも見えるようになっていること」では、未来自治体では決勝だけの一発勝負ではない予選が想定されていることや、適宜にアドバイザーに意見を聞くことができることが進捗の見える化につながります。ただし、途中経過をより積極的に広報することで、地域の人々の巻き込みを図ることはさらに検討されるべきかもしれません。

 三つ目の「競争する環境があることで「勝ちたい」というインセンティブが働くこと」は、未来自治体のプロジェクトが発表して終わりではなく、その的確性を競い合うことによって担保されています。流山市での未来自治体トライアル2012では会場の39歳以下の皆さんの投票が優勝者を決めました。39歳以下という30年後にも自治体に責任を持てる人々の投票であることが興味深いと感じます。そうした投票者に積極的に訴え、優勝を獲得しようとするインセンティブは用意されています。この様子はツイッターでもつぶやかれ、公開されていることの意義を意識させられました。

 その次は「勝つためにはひとりだけでは不十分である状況を準備し、協力の必要性を意識させられること」です。未来自治体は個人による取り組みではなくチームによる参加が求められます。夢や個別事業提案であれば個人でもある程度優れた意見提示は可能でしょうが、自治体まるごとを考える未来自治体ではチームで考えることが重要になります。それによって協力の必要性を理解することにもつながります。

 最後の「専門家でなくてもこうしたレースに参加できることで多くの人の関心を呼び起こせること」については、未来自治体では自治体というものの構造や、予算編成の考え方、行政用語などを学ぶことのできるワークブックやテキストが用意されます。アドバイザーも配置されることで、行政に通暁していなくても十分に参加可能となっています。とりわけ、参加者に学生や高校生が想定されていることは、政治や行政というものに無関心になりがちな世代をゲーミフィケーションのしくみにより、勝ちたい、だから深く地域について学びたいという思いへ誘うことにつながると考えます。

 あらためて、地域における広報という視点から考えてれば、未来自治体の取り組みが地域における課題や可能性を提起することは明らかだと考えます。今後の地域を担う若い世代を明確にターゲティングしていることにも注目できます。

 地域における広報とは伝えることにとどまらず、誘いこむことによって可能になる。そうした考えも生まれてくる取り組みとして、興味深いと考えています。
(注)http://markezine.jp/article/detail/14354
  1. 2012/08/05(日) 12:22:59|
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