河井孝仁のシティプロモーション日記とか

行政広報の基礎概念(AISLA+Sなど)

月刊『地方自治職員研修』臨時増刊98号「実践・自治体政策読本」に寄稿した論文をpdfにして転載しておきます
http://goo.gl/fMhSC

あわせて、挿入図のないテキストバージョンを下記に置いておきます



ここから4行は検索対応用
AISLA+S
LAISLA+S
(L)AISLA+S
上記先頭のLはListen(傾聴しつつ)という意味での付加



■行政広報
 河井孝仁
1 行政広報の基礎としての地域経営
 東日本大震災を経て、この国で、この地域で、人が可能な限りに自ら、家族、友人、知人、思いをいたす人の幸せを互いに支え、生き続けることが、なおさらに求められている。
 そうしたなかで、行政の役割は大きい。現在の地方自治制度において、知事・市町村長とは、一定の地理的範囲における住民の意思、期待及び希望が集約されたものとして考えることができる。その首長の指揮下で働く行政パーソンは、住民の意思を忖度し、二元代表制のもう一つの住民意思の集約機関である議会の適宜な承認を得て、人が幸福に生き続けるために必要な事業を実施することが求められている。

 もとより、行政及び議会だけが住民の意思を代理しているわけではない。住民の限定された意思・関心を代理して公共に関わるNPOや、社会的責任に基づき行動する企業もまた存在する。行政は彼らと緊張感を持ちつつ、必要な連携を行い、ミッションを実現しなければならない。そのとき、行政広報とはただの「お知らせ」ではない。人が幸福に生き続けるための事業を実現する、必須な仕掛けになる。
 そのうえで、行政広報が事業実現のための必須の仕掛けであるならば、計画・実行・評価・改革のサイクルに基づくことによって的確な実施が期待されることも当然となる。
 以下の議論は、こうした認識を踏まえて行われることをあらかじめ述べておく。

2 行政広報の定義
 では、あらためて行政広報とは何か。先に述べたように、行政を住民の代理人と把握するとともに、他の代理人であるNPOや企業と必要な連携を行う存在として考えるならば、行政広報とは、住民・NPO・企業など他の地域経営ステークホルダーと情報を共有し、相互の理解を行うための、仕掛けとして考えることができる。さらに、それら地域経営のステークホルダーに対し、地域をよりよく経営するための参画に向けて意識や行動の変容を働きかける仕掛けと考えることも必要になる。このことは、行政広報を計画・実行・評価・改革の視点でとらえ、評価の基準を考える際に重要な点ともなる。相互理解が行われたのか、意識・行動変容をなしえたのかを問わない行政広報はありえない。
 次に、行政広報がどのような要素から成り立っているかを考えてみよう。行政広報は、以下に掲げる行政サービス広報、政策広報、地域広報に区分することができる。
 行政サービス広報とは、市民や地域経営の他のステークホルダーを顧客として捉え、それらに、行政サービスについての情報を周知するものである。例えば、福祉サービスの権利者や受益者に適切なサービス利用を促すなどが、行政サービス広報にあたる。
 政策広報とは、主権者としての市民に、地域をめぐる現状認識とそれに基づく課題を提起することによって行われる。併せて、政策形成過程の情報を提供することで行政の見える化を果たし、市民の意見・提案を求めて計画づくりや政策形成への反映を図ることを指す。例示すれば、自治体広報誌において当年度予算の説明を行うとともに、歳入が潤沢ではない状況を提示し、政策の重点化の必要を訴えることは典型的な政策広報となる。
 地域広報は、地域のもつ多様な資源や魅力を地域内外に伝えることによって可能となる。地域は現在、震災からの復興が求められるなかでの少子高齢化や、地域自立・自律への動きの一方での財政難、地域間競争という環境のもとにある。また、住民の関心の分散は自治会などの衰退や、市民の地域への帰属・参画意識の希薄化という課題を生んでいる。
 そのため、行政には、地域の持続的な発展のために地域の魅力を発掘し、地域内外に効果的に訴求し、それにより、人材、物財、資金、情報などの資源を地域内部で活用可能とする役割が求められる。これを広報という手段で実現するのが地域広報である。地域外に向けて観光や移住促進を図るにとどまらず、住民に地域の魅力を再発見してもらい、帰属意識やシビックプライドを養ってもらう。それも地域広報によって実現される必要がある。
 行政広報を行政サービス広報、政策広報、地域広報という要素に区分した。これらはいずれも、先に述べた機能を持つ。言い換えれば、いずれの広報も、行政サービスを知らせればいい、政策を伝えればいい、地域の魅力を訴えればいいということではない。
 いかにして、サービスの的確な利用を促すか、市民による地域課題への理解を図り参画を得るか、地域の魅力を基礎に資源及び帰属意識の獲得を行うか、そこに向けた意識・行動変容を意図しない広報はあり得ない。

3 広報戦略
 行政広報が「伝える」にとどまらず、「伝わる」ことによって情報共有及び意識・行動変容という機能を果たすためには、戦略発想が必要となる。戦略とは、戦略に関わる人々へ方向性を明示し、的確な進捗を図るための手順書と考えることができる。行き当たりばったりの広報施策実施や、広報施策の一覧表で的確な情報共有、ましてや意識・行動変容を果たすことはできない。それではどのようにして戦略発想は可能になるか。実のところ、戦略発想に必要なものは目的設定とロジックモデルに過ぎないと考える。
 目的とは、広報戦略が何を実現するのかを明らかにしたものになる。ロジックモデルは、その目的に到達するための筋道を示す。
 経営戦略ではなく広報戦略を考える際には、ほとんどの場合、目的は既に与えられている。地域住民の意思、期待及び希望に応えるために提示され、支持承認された、首長のマニフェストや総合計画、事業計画にある目的を確認することで、広報戦略の目的設定は可能となる。広報戦略にとって重要なのは、その目的を実現するためのロジックモデルの提示である。ロジックモデルは設定された目的を実現するための段階的な成果としてのアウトカムと、そのアウトカムを生み出すための目標としてのアウトプット、そのアウトプットを得るための施策、施策を実行するためのインプット(資源投入)によって成り立つ。
 ロジック(論理)モデルという言葉は、このインプット→→施策実行→→アウトプット→→アウトカム→→目的という、それぞれの矢印「→→」に論理的な納得が求められることを意味する。なぜ、そのアウトカムが目的を実現できるのか。なぜ、そのアウトプットが必要なアウトカムを生み出すのか。なぜ、その施策が必要なアウトプットを得ることに繋がるのか。なぜ、そのインプットが施策を実行するに足るのか。いずれもが納得できる形で説明できなくてはならない。

 ひとつだけのアウトカムで、設定された目的を実現できることはほとんどない。交通事故死者の10%減少に貢献する広報戦略が求められるとして、広報施策によるアウトカムが担う部分がどこにあり、広報以外の施策によるアウトカムがどのように組み合わされるかを考えなくてはならない。
 目的実現のために、広報戦略によって求められるアウトカムがまた複数あることも少なくはない。例えば、交通事故死者の10%減少に貢献する広報戦略によるアウトカムを、後部座席シートベルト装着率を80%以上にすること及び、高齢者による信号無視発現率を5%以下にすることと設定することができる。この二つのアウトカムが、他のアウトカムと組み合わされ、交通事故死者10%減少につながることが納得を得て説明される必要がある。このうちの後部座席シートベルト装着率80%以上というアウトカムを実現するために、ガソリンスタンドでのチラシ配布5000枚を行うというアウトプットが考えられる。このアウトプットが他のアウトプットと組み合わされることで後部座席シートベルト装着率80%以上となることがまた説明可能になっていなければならない。それらの納得を得るために、ベース分析としての調査や、それらに基づく強み・弱み分析が必要となる。そのうえで、ガソリンスタンドでのチラシ配布5000枚を行う予算や人員というインプットが考えられる。これを明確にしたものが、交通事故死者の10%減少に貢献する広報戦略となる。
 説明可能であることと「絶対」であることは異なる。そのアウトプットを実現すれば、目標とするアウトカムが絶対に生み出されるのかと問うことは不毛である。戦略とは絶対に起こることを述べる数学的定理ではなく、説明可能な論理を示すものであることに留意しなければならない。行政とは絶えざる接近に過ぎないという発想もまた重要であろう。

4 戦略実現を可能にする発想
 的確な目的設定と説明可能なロジックモデルに基づく広報戦略を策定したとして、あるいは文書としてではなくとも戦略発想が可能となったとして、市民の意識・行動変容を実際に果たすため、次に求められることは何か。言い換えれば、ロジックモデルを机上ではなく、現場で実現するために何が求められるか。それは、ターゲティング、プロダクトフロー、AISLA+S、クロスメディアと協働の4つの発想である。

(1) ターゲティング
 まず、ターゲティングについて述べる。ターゲティングとは、その広報戦略は誰の意識・行動変容を果たそうとしているのかということである。行政広報で「誰を対象としているのか」を問うたときに多く聞かれる答に「市民を対象にしている」というものがある。誤った答ではない。行政がまず応答責任を負う対象であることは確かだ。しかし、個別広報施策において単に市民が対象であると述べても、求められるアウトカムを生み出すことはできない。市民を対象とするとしても、市民を一色のものと考えるのではなく、多彩な色の重なりとして市民を捉える、ターゲットの重なりとして把握することが必要になる。
 ターゲティングを考える際に重要な言葉にセグメントがある。対象を一定の共通項に区分することを指す。デモグラフィック・セグメント、ジオグラフィック・セグメント、サイコグラフィック・セグメントなどという区分方法が知られる。それぞれ性別・年齢などによる区分、住居地域や通勤・通学地域などによる区分、趣味嗜好などによる区分を指す。
 広報戦略の実現を可能にするためには、セグメントを行うだけでは意味がない。区分された対象それぞれはどこにいるのか、それぞれに訴求できる広報媒体は何か、受容されやすい広報手法はどのようなものか等を明確にし、それに合わせた広報を行わなければならない。それも思いこみで媒体や内容を決めるのではなく、できる範囲での調査分析を行うことが求められる。例えば、デモグラフィック・セグメントとして高齢者を対象にした広報を行う場合、インターネットを最初から活用できないメディアとして考えていないだろうか。最近の情報通信白書では60歳以上のインターネット利用者が急速に増加していることを示している。活動的な高齢者層にとってインターネットは無縁な媒体ではないことを示している。広報を考えるときに常にデータに対して意識的でなければならない。
 流山市は、このセグメントを意識した広報を行っている。首都圏共働き子育て世代の市内転入を進めようとする広報施策として、実際に東京・横浜から転入した家族が流山市内で憩う写真をモチーフにした「母になるなら流山市・父になるなら流山市」の大型ポスターを東京メトロや都内JRに駅貼りした。それらの駅を利用するターゲットをジオグラフィックにセグメントし、コピーと家族写真によってデモグラフィックにセグメントした広報施策として高く評価できる。

(2) プロダクトフロー
 ロジックモデルを現場で実現するための二つめの発想がプロダクトフローである。プロダクトフローは佐藤義典『実戦マーケティング戦略』に紹介されている。本章の趣旨に合わせて述べるならば、意識・行動変容は一足飛びには行われない、ということを意味する。
 まず、意識・行動変容を図る対象者にとって、ほとんど負担がなく欲しがってもらえる素材である「あげる商品」を提供する。次に若干の負担で獲得できる「売れる商品」にあたるものを提示する、そのうえで「売りたい商品」である、目標とするアウトプットに直接に繋がる行動を行ってもらう、という流れがプロダクトフローになる。

 例えば、宇都宮市では「住めば愉快だ宇都宮」をキャッチフレーズに、市民の地域への愛着確保を図ろうとしている。その場合、市民に向けて「さぁ、愛着を持ちましょう」と広報したところで、うまくいかないだろうことは十分に想像できる。宇都宮市は、市内の繁華街オリオン通りに飾る「住めば愉快だ宇都宮」のフラッグに登場する市民の公募を行った。オリオン通りに店舗を構える経営者などを含めた応募によって、オリオン通りには、各市民が宇都宮の魅力を書いたボードを持って写った大きなフラッグが並んだ。これは無料で欲しがる商品を提供する「あげる商品」としての広報施策である
 あわせて、宇都宮市は、栃木県内、宇都宮市内の特産品を容易に入手できるアンテナショップ「宮カフェ」をオリオン通りに設置した。繁華街の一カ所に宇都宮産品を揃え、リーズナブルな価格で提供することで「売れる商品」の提示を行うことができた。オリオン通りの大フラッグに登場した市民、それを眺めた市民にとって、住めば愉快だ宇都宮のロゴを大きく描いた「宮カフェ」が親しみやすいものになっていることも重要である。
 こうした「あげる商品」「売れる商品」を着実に用意することで「売りたい商品」である地域への愛着を獲得できる。顧客としての対象者に対し、一足飛びを要求するのではなく、一歩一歩、階段を登ってもらう広報施策を用意することで、広報戦略に設定した目的につながるアウトカムを生み出すことができる。

(3) AISLA+S
 広報戦略を支えるロジックモデルにおいて、広報施策によるアウトプットが中間アウトカム・最終アウトカムを通じて、目的の実現に至るために必要な3つめの発想はAISLA+Sである。AISLA+Sは、対象者の行動変容モデルとして広告代理店の電通が提唱するAISASを基礎として発想されている。AISASとは、広報の対象者が「情報を認知し」(Attention)、「関心を抱き」(Interest)、「詳しい情報を探索し」(Serch)、「広報を行うものが期待する行動を行い」(Action)、「その感想を発信し、他者と共有する」(Share)という意識・行動の変化の頭文字を並べたものである。

 しかし、広報の対象者が自動的に、言い換えれば何もしなくても勝手に、AISASという意識・行動変化を起こしていくわけではない。それぞれの行動の背中を押す広報活動が必要になる。その広報活動を改めて示したものがAISLA+Sである。それは、認知(Action)獲得、関心(Interest)惹起、探索(Serch)誘導、着地点(Landing point)整備、実行(Action)促進に加え、各時点での、情報共有(Share)支援という6種類の広報活動をタイムリーに実行する必要を意味している。以下に、それぞれの広報活動を具体的に説明する。

ⅰ 認知獲得
 知らない人に情報を知ってもらう認知獲得にとって、有効なアウトカムを生み出すことのできる広報活動としてマスメディアへのパブリシティがある。若年層などターゲットによっては新聞の効果が小さいことや、ターゲッティングが明確になっている雑誌などの場合も考慮し、的確な媒体選択が重要であることは言うまでもない
 パブリシティ活動としてのアウトプットは、マスメディアへの情報提供回数や量、例えば記者クラブなどへの「投げ込み」回数などがありうる。しかし、それが中間アウトカムとしてのメディア掲載につながるには、量としてのアウトプットを満たすだけでは不十分であろう。そこで必要となるのはメディア掲載を促す誘発ポイントとでも言うべき点である。訴求するコンテンツの差別的優位性の提示、例えば「○○初」など狭い範囲でも訴求可能かを検討すること、背景としての「物語」の設定、そしてギャップの意図的な露呈などが有効となる。「○○という自治体がこんなことを」というイメージの裏切りなどはメディア掲載にはつながりやすい。そのためにも、自らのイメージを調査などによって把握していくことも意義を持つ。
 マスメディアへのパブリシティ以外にも認知獲得に繋がる広報活動は少なくない。自治体広報誌も認知獲得にとってきわめて重要なメディアとなる。あるいはポスターやちらしなどもターゲットを十分に理解し、調査の結果として場所や時期を選択すれば広報対象者の認知獲得に結びつく。ターゲット層によってはtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアが認知獲得に役立つ場合もある。それらの場合も、先に述べた誘発ポイントを意識することで、期待される認知獲得のアウトカムを実現できる。

ⅱ 関心惹起
 AISLA+Sにおいて、二つめの「背中を押す」広報活動「I」に求められるアウトカムは関心惹起である。関心はどのような時に生まれるか。基本的には「自分にとって関わりがある」と思えるときである。ここではターゲティングの発想との関わりが大きい。マスメディアなどを利用し、全体的な認知獲得を図った上で、ターゲット層に興味のある内容をコンテンツとすることで、深掘りしていく方法があり得る。「どこかで見たな」と思わせ、そのうえで「自分に関係があるな」という流れを作る方法になる。「どこかで見たな」だけで、自分と関係があると思わせられなければ、必要なアウトカムは得られない。
 あるいは、あらかじめターゲット層に適したメディアだけを活用することで、認知獲得と関心惹起を一挙に行う方法もあり得る。事前調査等によってターゲット層の活用する媒体が明確である場合には、この方法も十分に有用だろう。
 筆者が北九州市小倉北区役所に伺ったときのこと。コーヒーが飲みたくなったが、カフェに行く迄の時間はない。ロビーに紙コップ式の自動販売機があったので、コーヒーを購入したところ、紙コップには「北九州水道100周年」のロゴとキャラクターが描かれていた。このロゴやキャラクターがポスターとして区役所に貼られているだけであれば通り過ぎてしまうだろう。しかし、今まさに「飲む」ということを行っているなかで、カップに描かれた水道についてのロゴとキャラを眺めることは関心惹起につながりやすいことは明らかだろう。サイコグラフィックなセグメントによる関心惹起ということができる。
 関心惹起については、ターゲット層にあわせたコンテンツが重要であるが、最近、積極的に用いられているtwitter、とりわけfacebookなどのSNS、ソーシャルメディアにおいてはコンテンツ(中身)もさることながら、誰がその内容を推奨しているのか、利用しているのかが見える化されていることが重要となる。マスメディアなどでは有名人の推奨が意味を持つが、ソーシャルメディアでは自分の知人、友人が推奨し、活用していることが容易に見える化できる。それによって関心を惹き起こすが可能となることにも着目したい。イベントへの参加拡大をアウトカムとする際に、ターゲット層にあわせたイベント内容とすることは当然だが、併せて「あなたの友人も参加していますよ」ということを知らせることのできるメディアが現れていることを等閑視していてはならないだろう。

ⅲ 探索誘導
 三つ目の背中を押す広報活動が求めるものは探索誘導である。興味関心を持ったターゲットに、より詳しい情報を探し出してもらうことが求められる。認知獲得や関心惹起の段階ではあまり詳しい内容は提示できない。スペースも限られているだろうし、細かすぎ、すべてを読まなければならないような広報内容は、むしろ関心を失わせる。
 しかし、行動に結びつけるには、一定の詳細な情報を理解してもらうことが必要となる。そのため、探索誘導にあたる広報活動が必要となる。ただし、関心惹起と切り離し、別個の施策として探索誘導を行う必要は必ずしもない。関心を持った時点で、すぐに詳しい情報を探索してもらうには、関心惹起と探索誘導が連動していることが望ましい。例えばウェブページに詳細情報を掲載しているのであれば、認知獲得・関心惹起に用いた媒体に、そのウェブページに確実に到達・着地できる検索用の言葉を示しておくことが必要になる。単に検索ワードを掲載しても、実際に検索すると、検索結果の最初の画面に見てほしいウェブページが出現しないのであれば、探索誘導の施策としては意味がない。検索ワードの選択には留意が必要なことは当然だろう。携帯電話でウェブページにアクセスすることが多いターゲット層の場合にはQRコードによって探索を誘導することも意味を持つ。
 探索誘導は必ずしもインターネットに限定された広報施策ではない。あらかじめ市民便利帳などの紙媒体冊子を各世帯に配布しているのであれば、詳細情報の掲載ページを、認知獲得・関心惹起で用いた媒体に掲載しておくことも探索誘導になりうる。

ⅳ 着地点整備
 関心惹起・探索誘導のための広報施策が、当該広報戦略のターゲットに詳しい情報に到達・着地してもらうという中間アウトカムを、生みだすことができれば、ターゲットは目的あるいは目的につながる最終アウトカムとなる行動に踏み出すだろうか。まだ、不足である。到達・着地することと実際に行動することは異なる。イベントのページに着地し情報を読むことと、イベントに参加することはイコールではない。
 ここで必要となるのが着地点整備を行う広報施策である。探索誘導が成功し、せっかく詳細情報ページに到達・着地したとして、その着地点としてのページが不十分な内容であれば、ターゲットとなる人々は頭を傾げながら離れていくだろう。
 どのような着地点が必要か。筆者は信頼性と信憑性の二つが求められると考える。ここで筆者は信頼性を「組織・人物として信じるに足ること」、信憑性を「個々のデータ、コンテンツがその利用者にとって意義がある、確かであること」という意味で使い分けている。
 信頼性は行政の持っている最も大きな資源である。そのため、行政の公式ページに着地してもらうことができれば、信頼性は確保できるであろう。もちろん、表現に不十分さがあったり、十分な更新が行われていないというようなことがあれば論外となる。わかりやすく、常に新鮮な情報を提供することは広報戦略以前の問題として当然となる。
 しかし、行政の公式ページがわかりやすく、新鮮である、つまり信頼性があるだけでは行動に結びつくには不十分なことも少なくない。併せて必要となるものが、本論で述べるところの信憑性になると考える。特に、使いやすさや楽しさ、ターゲット個々にとっての意義などは、情報を提供している組織や人物に信頼性があるとしても、それだけでは納得できるわけではない。電子商取引を行う楽天やアマゾンのレビューなどの口コミが重視されるのもそのためであろう。著名なメーカーであっても、生産した商品が、コマーシャルで言うとおりの性能を常に発揮するのか、それ以上に、自分にとってマッチするのかは不明確であると考えるからこそ、口コミサイトが隆盛していると考えられる。
 このことは行政広報にも同様である。行政が提供する情報であっても、個々のコンテンツが自分にとって意義があるかは必ずしも一意ではない。そうした際に信憑性を確保するための広報施策とは何か。広聴の充実及び活用とソーシャルメディアの利用が考えられる。
 広報内容であるコンテンツについて多様な声を聴き取る仕組みを用意する。その声をFAQ(よくある質問と答え)としてまとめることも意義を持つ。さらに、コンテンツについて語られているtwitterやfacebook、あるいはブログで語られる内容を、ハッシュタグと呼ばれるtwitterでの情報集約の仕組みや、facebookページの設定、ブログまとめサイトなどにより一覧的に可視化する仕組みも丁寧な対応が可能であれば有効だろう。この信憑性を確保するための着地点は、公平性や形式性に強い行政が直接運営するのではなく、柔軟性や迅速性に秀でたNPOなどと連携して行うことも十分に可能性がある。例えば秋田県横手市のYokotter(ヨコッター)の取り組みなども参考になるだろう。
 信頼性のある組織としての行政からの情報提供の着地点と、多くの人の声によって信憑性を裏打ちする着地点。この二つの着地点の整備が、次の行動促進へのフェイズへの移行をスムーズにする。

ⅴ 行動促進
 いよいよ、行動促進に向けて背中を押す広報施策となる。ここで必要なことは、認知獲得→→関心惹起→→探索誘導→→着地点整備というステップを確実に登ってきてくれたターゲット・対象者を丁寧にケアする、お世話をするという考え方である。
 「ここまで来たのですから、後は自分でご勝手に」ではなく、自らを対象者の身に置き換えて、どうしたら最後の行動をしやすいかを考えること。連絡先が見つけやすいこと、事例などを提示し「あなた一人ではない」ということを明示すること、インターネットであれば申込フォームの活用やクリック数の少なさなども重要になる。
 行動に向けたインセンティブの明確化も改めて必要になる。その行動が私にどんなプラスをもたらしてくれるのか」を明らかにすることが行動に向けた背中を最後に押すことにつながる。「お得」「おまけ」のような物質的な満足もあるだろうし、「使命を果たすことができる」「私の知っている誰かを幸せにできる」というような精神的満足への期待を示すことも有意義だと考える。
 行動促進のための広報施策が必ずしも独立したものとして行われなければならないわけではない。着地点整備の一環として留意することと考えることもできるだろう。

ⅵ 情報共有支援
 広報戦略のアウトカムとして、認知獲得→→関心惹起→→探索誘導→→着地点整備→→行動促進という一連の背中を押す広報施策を行うことによって、ターゲットの一定の行動を実現することができた。行政広報が1回限りのものであれば、これで完結である。しかし、行政は継続的に地域経営の重要な一画を担い、その手段として広報を行い続ける必要がある。そのために必要な広報施策が情報共有支援になる。行動を起こした対象者や、その周囲の人々に、行動に関連した様々な情報発信を行ってもらう。その情報発信を行いやすくすることが求められる。これによって、先に述べた着地点整備のうち、信憑性を確保する着地点を充実させることにもつながる。また、着地点整備だけではなく、広報評価、事業評価のツールとしても活用可能となる。行政広報も計画・実行・評価・改革のサイクルに基づいて行われなければならないとすれば、情報共有支援の必要性は明らかである。
 着地点整備、広報評価に注目すれば、情報共有支援のための広報施策は事業の対象者が行動を行って後に初めて行われるのでは遅すぎる。認知獲得、関心惹起、探索誘導、着地点整備のそれぞれの段階で行われる必要がある。それぞれの段階で情報共有を支援することで、着地点のコンテンツも豊富化し、広報評価が行われることによって、必要な是正や方向転換が可能となる。その点を明確にするために、対象者の行動変容を促す一連の広報施策を、本論ではAISLASと表記せずに、AISLA+Sと表している。
 情報共有支援の具体的な手法として、対象者やその周囲による情報発信へのインセンティブ付与がある。発信することで「お得」「おまけ」が発生するという仕組みもあり得るが、適切な情報発信について迅速かつ文脈にあったリプライを丁寧に行っていくだけで、大きなインセンティブになる。放っておかれた情報は育つことはない。情報を充分に育てようと意識した施策、対応をとることで情報発信は望ましいものになっていく。
 あわせて、着地点整備の際にも述べたように、情報発信の場を用意することも意義を持つ。twitterやfacebookに代わるものを用意すると言うことではなく、それらを編集し、集約する仕組みが有効になる。

(4) クロスメディアと協働
 ターゲットを明確に意識することで適切な媒体やコンテンツを選択、制作する。対象者を負担の小さな活動から一つずつステップアップさせるため、それぞれの一連の広報施策をAISLA+Sに基づいて行う。以上が十分に行われ、ロジックモデルが適切であれば、戦略において設定した目的は実現できる。その際、どのようなメディアを使うかという視点で考えるのが、クロスメディアという発想である。クロスメディアは多様なメディアに同じ内容を提供するものではない。それぞれのメディアのターゲット適性、コンテンツ提示の行われ方、一方向的か双方向的かなどのメディアの特徴を的確に認識し、アウトカムを達成するためにどのような組み合わせ方が望ましいかを考えた上で、多様なメディアに、それぞれに適合したコンテンツを提供するものである。
 広報誌、チラシ、ポスター、冊子、フリーペーパー、公式Webページ、ソーシャルメディア、コミュニティFM、CATVの自主放送チャンネル、マスメディアへのパブリシティなど、それぞれの特徴をよく認識すれば、プロダクトフローのどこで、AISLA+Sのどこで、そのメディアを使うべきかという判断も可能になる。
 原初的なモデルを考えれば、マスメディアへのパブリシティによって認知を獲得し、街頭での手配りの紙媒体で「マスメディアでの報知をなんとなく覚えているので手にとってもらいやすい」ターゲットを見極めつつ配布を行い、その紙媒体にWebサイトアドレスやQRコードを記載。興味を持ったターゲットがインターネットにアクセスしやすくしたうえで、ソーシャルメディアでの感想を獲得しつつ、紙媒体やマスメディアだけでは表現しきれない即時性や情報の広がりをもった情報を伝達し、ソーシャルメディアへの情報発信を集約共有して内容の信憑性を高めるということなどが考えられる。
 例えば静岡県島田市でNPO法人クロスメディアしまだが運営する地域ポータルサイトeコミュニティしまだは、地域のブログを主に、地方紙、地域のフリーペーパー、コミュニティFM、twitter、コミュニティ情報誌、フェイストゥフェイスのイベントなどを組み合わせることで、市民に多様な接近を図っている。まだまだ十分に適時適切に使いこなせているとは言えないが、行政との連携もあり、行政広報のツールとしても今後の展開に興味が持てる取り組みである。
 クロスメディアについて考えることは、広報における協働について考えることにつながる。協働とは単に一緒に働くことを意味しない。ある広報戦略を実現する際に、二つ以上の主体がそれぞれの強みと弱みを相互に補完しつつ連携して、目的に到達することを意味する。クロスメディアにおいて多様な媒体やコンテンツ、それらを運営し創造する人々が、それぞれの特徴を活かして連携することで広報戦略の目的を達成できる。
 地域経営が市民を主権者とし、議会・行政、NPO、企業を代理人として地域に生きる人々の幸せを築くものだとすれば、行政広報も行政だけではなく、必要に応じ、行政の弱みを他者の強みで補完し、行政の強みによって他者の弱さを補う協働という仕組みを用いることで、広報戦略に掲げた目的を実現することが期待される。

5 おわりに
 本論では、行政広報を地域経営のステークホルダー間の情報共有と市民の意識・行動変容を目的として戦略的に行われるものとして捉えた。そのうえで、戦略実現のためにターゲティング、プロダクトフロー、AISLA+S、クロスメディアと協働という発想が求められることを述べた。
 しかし、紙幅の関係でクロスメディア及び協働広報については詳細な分析及び事例の提示ができなかったことは残念である。また、行政広報の評価については断片的に述べてはいるが、まとまった形での論考ができていない。行政広報を計画・実行・評価・改革によって推進していくためには必須の項目であり、これも積み残した内容となっている。さらに、行政広報という仕事を通じた公務員及び地域経営のステークホルダーの成長の可能性についても筆を伸ばす予定であったが、記述には至らなかった。その他、インターネットの活用、広聴活動、広報担当部局の役割、地域広報の基礎となる地域魅力創造サイクルなど、事例を踏まえつつ、まだまだ議論したいところも多くあった。
 しかしながら筆者としては、本論が小論に止まったとはいえ、読者にとって行政広報をあらためて考えるきっかけとなれば幸いであると考えている。読者の皆さんが、よりよい地域を創る一画を担い続けられることを期待して本論を閉じたい。



  1. 2012/06/23(土) 13:40:40|
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