河井孝仁のシティプロモーション日記とか

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ポータブルガバメントという発想(1)-『広報会議』2012年3月号

 最近、ポータブルガバメントという言葉を考えています。持ち運べる政府という意味を込めています。
 ここのところ、iPadなどのタブレット端末が急速に普及しています。この原稿を書いている日にも、障害のある子どもたちの教育にタブレット端末が有効であることがニュースで紹介されていました。文字を書きにくかったり、ページをめくりにくかったり、大きな教材を利用することが困難だったりする子どもたちにとって、指を滑らせることで多くのことを行うことができるタブレット端末がたすけになっているという内容でした。タブレット端末については、この連載においても、災害時の情報提供手段としての意義を述べたことがあります。またタブレット端末は高齢者とインターネットをつなぐ道具として、従来のパソコンや携帯電話に比べ優位性をもっています。

 文字を記すという行為のなかで最も利用している道具がキーボードである人も多いでしょう。ディスプレイに置かれている画像(オブジェクト)をつかみ、移動させるときにはマウスを使うことが当然でした。IT機器に関わる企業の多くが打ちやすいキーボード、握りやすく使いやすいマウスをつくりました。携帯端末にも活用できるキーボードやマウスを積極的に発表しました。あるいは、携帯電話による文字入力は1から10までの数字ボタンを文字キーに見立てて利用することが当たり前でした。若い年齢層にとっては文字を記すことの多くが携帯電話の数字ボタンを押すことになっていたと思います。

 しかし、文字を記すことの多くがボールペンと紙、鉛筆と紙という方も少なくありません。そうした人々にとって、キーボードやマウスとディスプレイ、携帯電話の数字ボタンという道具は文字を記すという行為にとって隔靴掻痒だったはずです。このことは私にとっては意識的には改めて考えたことがない点でした。それだけ、文字を記す=キーボードを使うということが当たり前になっていたわけです。このことは、マウスを持ち上げてディスプレイに押し付けている姿を笑い話として聞いていたことにもつながります。

 打ちやすいキーボードや押しやすいボタン、携帯端末にも活用できるキーボードやマウスという発想ではなく、手軽に情報を活用するという目的に身近に寄りそったものとしてタブレット端末を考えることができます。どのようにしたら、よりよく「文字を記すという行為」「ディスプレイに表示されたモノをつかみ、移動するという行為」を可能にするのかを考える、そのときに創造的破壊としてのタブレット端末が生まれます。指をディスプレイに滑らせるという直接性がすばらしいキーボードやマウス、押しやすい数字ボタンを「破壊」し、タブレット端末を「創造」したと考えられます。イノベーションが単なる技術進歩ではなく、創造的破壊であるということのわかりやすい事例です。

 この創造的破壊が、参画しやすい政府であるポータブルガバメントの道具としての基礎を作ります。今まで、この連載でも多くの自治体による情報技術を使った取り組みを紹介してきました。それらは行政サービスを的確に活用してもらうための、地域の課題を認識し共に地域経営に関与してもらうための、地域の魅力を訴求するための取り組みでした。そこには市民への情報の幅広い公開や、市民の声を聞き、施策に積極的に活かそうという双方向性も備えていました。それらは、政府が市民の代理人として常に選択されている状況を作り出すための取り組みであるということもできるでしょう。政府を政府の行う取り組みを他人事にしない。主権者である市民が人々の幸せを築くために、自分たちだけでは行いにくい役割の、小さくない一部を政府に負託し、それらが的確に行われているか監督し、さらによりよいものにしていくための提案を行う。そのための取り組みであったはずです。

 しかし、それらの取り組みがキーボードやマウス、携帯電話の数字ボタンという道具を前提とするならば、それらはやはり間接性による、ぎこちない他人行儀なものだったのではないかと考えています。子どもたちの顔を見ながらどんな公園があるといいか思いついたとき、地元の川をみながら環境についての新しい計画について意見が生まれたとき、家に帰らなければ手近にはないパーソナルコンピュータや小さな画面しかない携帯電話では面倒で、そのままになってしまう。そうしたことが、手元にあるタブレット端末にあるアプリやショートカットに指を置くことで可能になる。もちろん、そのような行為が促されるにはまだいくつかのハードルがあります。そのことは後で再検討します。

 ここで申し上げたいのは、地域に関心を持ち、ともに人々の幸せを築き、そのために自分だけでは十分にできないことを代理人に負託・監督し、自らも積極的に意見を提示するという地域経営への参画にとっての「アフォーダンス(を持つデザイン)」ということ、「アンビエント(なデザイン)」ということです。

 アフォーダンスを持つデザインとは、カリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授で認知科学者であるD.ノーマンの著作に基づけば「人が○○という行為をしたくなる可能性を高める」デザインということです。たとえば、人は椅子ではなくても高さや大きさなどが「ちょうどいい」箱があれば、そこについ座ってしまう。そのような、行為を誘い出すようなデザイン。

 アンビエントなデザインとは、人が普段は気にしていないけれど、ごく小さなきっかけによって、何らかの(無意識的な)行為が誘い出される環境を用意するためのデザインということもできると思います。私が大学院に在籍していた頃、アンビエントな環境を持つパーソナルコンピュータのディスプレイ画面を研究している知人がいました。彼の提案した画面は、時刻にあわせて空の色が変わっていく街の様子を単純なデザインで描画したものです。影だけの小鳥がそこをときおり飛んでいく。それだけのものでした。ただ、その鳥はメールの到着がある程度の数になると、その数に応じて振る舞いや鳥の数を変える。そのようなものだったように覚えています。一通一通に反応するわけではないし、開封を強いるわけではないけれど、いつのまにか増えている鳥が、普段はしない宙返りを小さくして消えていく。そこにふと気づく。私はアンビエントというものをそのように考えています。

 今まで、政府に関するコミュニケーション、行政に関するコミュニケーションは制度として発想され、必ずしもデザインとしては発想されてこなかったのではないか。そのことが、どれほどよい仕組みがあったとしても政府や地域を他人事としていたのではないかと思います。タブレット端末という創造的破壊が、アフォーダンスやアンビエントというデザインの発想を地域経営にも可能にするのではないかと思いはじめています。次回以降で、こうした発想をさらに展開させていきたいと思います。
  1. 2012/04/08(日) 08:55:01|
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河井孝仁

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