河井孝仁のシティプロモーション日記とか

佐賀県武雄市「広報武雄」の意味-『広報会議』2012年2月号

 佐賀県武雄市は市職員全員にTwitterのアカウントを持たせ、公式ページをFacebookにするなど、ソーシャルメディアの活用で注目されています。樋渡市長が日本ツイッター学会、日本Facebook学会立ち上げに関わり、市の組織としてFacebook係があることも異色です。
私もそれらに興味を持ち訪問してきました。ちなみに、武雄市は「武雄市への行政視察のご案内」をwebに掲載し、行政視察の申し込み方法、視察テーマ別ランキング等を示しています。同じページに武雄市観光情報検索へのリンクが貼られていることもよく考えられています。

 しかし、武雄市を訪問した私にとって最初の驚きはweb上のソーシャルメディアの活用ではなく、行政広報誌「広報武雄」でした。

 表紙に東日本大震災ボランティア タウン・サポート「チーム武雄」の写真を掲載した広報武雄11月号は、第6回がばい武雄の物産まつりというイベント開催案内を2ページ目に置いています。おしくらマンという豚を模した武雄市のゆるキャラが「遊びにきてね!」と言っていることはそれほど珍しくはありません。あまり可愛いという印象ではない(失礼!)豚が青やピンクの装束をしていることには少し引き気味になるとしても。それ以上に、私が違和感を感じたのは、おしくらマンと一緒に手を挙げて、ぎこちない笑顔を見せている男性です。男性の写真には担当:石丸というキャプションが付けられています。

 広報武雄3ページには物産まつりの詳細、4ページには表紙写真に関連したチーム武雄活動報告があります。その次のページ、緊急災害情報エリアメール配信開始の記事には、開いた赤い携帯電話を元気よく手前に見せる、ちょっといかつい男性の写真があります。キャプションは担当:山北。下部の記事は糖尿病予防のための講習会。女性がパンフレットを持ち、これも笑顔でこちらを見る写真があります。キャプションは担当:永渕。

 以降の、ひとり親家庭の人へ、障がいのある人へ、B型・C型肝炎の治療費助成制度という各ページでも、微笑んだり、歯を僅かに見せて笑ったりしている写真が続きます。5ページから8ページにある6枚の写真はすべて笑顔の写真です。それぞれ、担当:古賀、担当:松尾、担当:草場、担当:森田とキャプションされています。森田さんはあまり笑顔が得意ではないのか、若干ひきつった感じですが、笑おうとしている努力は感じられます。

 それぞれの業務を担当している職員が顔を曝しているわけです。親しみやすさという点からも注目できると思いますが(私にとって好感が持てた森田さんの努力による笑顔が、親しみやすさに繋がるかは人によってそれぞれだと思いますが)、むしろ、これは「責任」の問題として捉えることができると思っています。

 行政の仕事は基本的には組織として行われ、個人が前面に出ることは一般的には少ないと考えます。地方自治体職員の多くには名刺が支給されず、必要と考えた職員個人が自前で作成していることが多いこともその証左かもしれません。

 もちろん、武雄市においても住民に対する最終的な責任は組織が負うことになります。しかし、広報武雄の職員の笑顔には、その組織を見える化し、組織が個人によって成立していることを意識させる力があります。このことは職員個人にとって厳しさにもつながるでしょう。最終責任は組織がとるとしても、顔と名前を曝していることにより、各事業の成否について、少なくとも「担当:○○」の仕事として言及されることはあり得ます。一方で成果を上げることができれば「担当:○○」が関わった仕事が、住民の幸せに繋がったとの評価を得られることがあるかもしれません。広報武雄に掲載される職員の笑顔には、あえて両刃の剣を持ったという意味を読み取ることができます。

 武雄市職員全員がTwitterアカウントを持つことも、ここにつながる部分があると思います。市の公式ページからリンクされるtakeocitypubというTwitter公開リストには、職員ツイートが一覧されています。takeocitypub全体には多声的(ポリフォニック)に武雄市をプロモーションするという魅力もありますが、個々の職員ツイートに注目すれば、そこには「職員の見える化」という広報武雄の笑顔と同じ発想が見られます。しかもTwitterでは、職員の思いや具体的な業務への取り組みまでもが露呈されています。意欲を持ち、積極的に業務に取り組み、地域の幸せを築こうとしている武雄市職員の担当:○○が浮き彫りにされてくる姿です。

 最近、いくつかの自治体が、職員のソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを設け、職員によるソーシャルメディア活用を進めようとしています。これらも活用の仕方によっては多声的な地域プロモーションにとどまらない、職員の見える化につながる可能性を持っています。

 リボルビングドア(回転扉)というキャリアに関わる言葉があります。アメリカの大統領交代時に多くの政府職員が辞職し民間シンクタンクや企業経営等に職を求め、逆に産業界や学界などの人々が新たに政府職員として働く姿を称した言葉です。NPO職員や企業社員、研究者と行政職員が相互に仕事を代わり、一定期間がたてば、NPOや企業、行政、研究機関に戻る、それを何回か繰り返すことも指します。

 多様な経験や知識、意欲を持つ人々が、それぞれの才能を活かし、個人としても多様な場で活躍する。あるときは企業に関わって意義のある製品やサービスの開発・提供に関わり、あるときはNPOの理事・職員として非営利事業の的確な展開を図る。また、研究者としてあるべき姿を考察する。さらに行政職として企業やNPO、研究機関での経験も生かして、地域の人々の幸福形成に尽力する。これは、企業、NPO、研究機関、行政がそれぞれに他者を知らないまま縦割り、非効率に活動している状況に比べればはるかにダイナミックな可能性を持った姿だと考えます

 行政職員の見える化という点に関わって言えば、その職員が「見えている」からこそ、何ができる、何を考えている人間なのか、どのような思いで公務に関わっているかが、市民にも、企業にも、NPOにも、研究機関にも理解可能となります。実際にも数は少ないとはいえ、行政という場から新たな場に踏み出す人々も生まれています。そうしたときに「見える化」されていたことは大きな意義を持つはずです。

 一方で、個人のメールアドレスさえない地方自治体があります。小規模ではない政令市でも。情報セキュリティ等の課題もあるのでしょう。しかし、職員によるソーシャルメディア活用も不十分で、組織メールアドレスしかない自治体での、職員の見える化は困難です。閉鎖性を感じさせます。

 これからの日本は、縦割りだけに安住したスタティックな仕組みのまま成長を志向することは困難です。多彩な人々の連携や交感によるダイナミックな仕組みが求められるはずです。徐々にそうした姿も見えてきています。

 広報武雄の職員の笑顔はそうした姿にもつながっていると考えます。
  1. 2012/03/01(木) 08:32:11|
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河井孝仁

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