河井孝仁のシティプロモーション日記とか

東日本大震災-自治体地域外への避難者と地域情報(3)-『広報会議』2012年1月号

 今月も引き続き、東日本大震災に関わり、特に自治体地域外へ避難された方への情報提供及びそうした皆さんの意見の汲み上げについて考えていきます。

 先日、福島県内の自治体から静岡県内の自治体に避難された二名の方にお話を聞く機会がありました。いずれも放射性物質による汚染被害を危惧されて、母子で避難されて来られた方です。この方々のご意見を伺って考えたことを端的に申し上げれば、やはり情報が十分に提供されてはいない、ましてや意見の汲み上げには至っていないという印象です。

 被災地となった、2011年3月11日まで居住していた地域・自治体についての情報について、お二人の意見を基礎に考えてみます。二人とも被災地の居所だった自治体の広報誌を受け取ってはいません。それは被災地自治体の視点から考えれば理由のあることです。

 お二人のうち一人は、小学生の子どもさんの転校のために転出手続きをとり、静岡県内の自治体に転入しています。被災地自治体から考えれば彼女は既に住民ではありません。転出した元住民に情報を提供する義務は存在しないことは当然です。

 また、もう一人の方は住民票は被災地自治体に残したままですが、夫は仕事の関係で被災地自治体に居住しています。自治体広報誌が世帯に配布されることを考えれば、居住を続けている夫に配布すれば足りることになります。

 以上は、今回の巨大災害、とりわけ原子力発電所事故を考えなければ、何ら不適切な対応ではないでしょう。しかし、原子力発電所事故、それに伴う放射性物質の大量の漏洩などを踏まえ、それぞれを具体的に考えれば、被災者への情報保障の不十分さは明らかです。

 まず、転出した女性は原子力発電所事故が収束し、放射性物質への不安がなくなれば、再転入、帰宅を希望しています。確かに法令上、彼女は被災地自治体の住民ではありません。しかし彼女にとって被災地自治体が「戻るべき場所」であれば、その地域の情報が十分に提供され、保障される必要があるでしょう。言葉は不適切かもしれませんが、彼女は「難民」的状況に置かれています。被災地自治体にとって彼女の自らの地域・自治体への関心を確保しつづけることが求められる状況だと考えます。それによって彼女のような人々に精神的な居場所を提供し続けることが、今後の復興のためにも意義を持つはずです。

 実際にも彼女は友人への電話や携帯メールを使って、元の居住地域の情報を把握しようと努力しています。彼女自身も帰る決断をするために必要な情報が不足しているとの困難を述べていました。さらに、震災前、彼女の小学生の子どもさんは事情によって隣接する別の自治体に通学していました。そのため、居住していた自治体に加え隣接自治体の情報も必要としています。それらの情報も入手することはさらに容易ではありません。しかし、帰郷をするためには必須の情報になるはずです。

 住民票を残したまま、母子のみで避難した女性について考えれば、被災自治体としては夫に広報誌を配布しているのだから、情報は夫を通じて入手してほしいということになるでしょう。しかし、被災地で慣れぬ一人暮らしをしている、震災以降、仕事に急激に忙しさを増した夫に、避難している母子への丁寧な情報提供を期待することには難しさがあります。彼女はwebを利用して被災地の状況を把握しようとしていると述べていました。

 そう、webがあるはずです。現在、ほとんどの自治体がwebに広報誌を掲載しています。もちろん、自治体公式サイトには広報誌にとどまらない情報も随時掲載されています。私が被災地自治体で広報の担当職員の方にお話を伺ったときにも、自治体外へ避難された方についてはwebを参照してもらうことで一定の情報保障が可能になるとの言葉をお聞きしました。その際には、私も納得していたのですが、避難されてきた方の意見を聞くと、その単純な納得は不十分なものだと気づきました。

 転出した女性は避難先の住宅にパソコン(PC)を備えていません。被災し転出した人々の多くが潤沢な資金を持っているわけではなく、かつPCが支給品に入っていない以上、こうした状況は不思議ではありません。住民票を残したまま避難した女性も、縁故者が近くにいたことによってPCを使える状況にあるだけです。

 近年、多くの自治体が携帯電話向けの公式サイトを持っていますが、情報は制限されたものにとどまり、居住者向けや観光客向けの限定された情報が中心です。

 お話を伺ったお二人とも避難先自治体や知人から教えられ、総務省が提供している全国避難者情報提供システムに登録しているとのことですが、このシステムに登録したことによって新たに得られた情報は今のところほとんどないとのことでした。情報提供すら不十分な状況では、域外避難者からの意見の汲み上げが的確に行われることも期待できません。

 一方で、被災によって繁忙を極め、財政的にも困難な状況にある自治体に対し、情報保障の不足を言い立てるだけでは事態の解決は困難です。費用や作業量を考えれば、全国各地に避難した住民、ましてや転出者への紙媒体による情報提供、さらに思いの汲み上げを行うことには無理があります。政府や広域自治体による支援も考えられますが、地域の詳細な情報提供の支援には十分に対応は困難でしょう。やはり、webの活用が合理的です。

 しかし…、と堂々巡りになってしまう思考にブレークスルーをつくる発想の一つに、域外避難者にターゲットを絞った情報編集と、タブレット端末の利用が考えられます。

 現在、被災地自治体のPC向け自治体公式サイトにおいて、域外への避難者向けに情報が集約されたコーナーが用意されているところはほとんどありません。こうした編集が行われることで、域外避難者にとって簡易な情報取得が可能になります。転出した女性のような複数自治体の情報を必要とする避難者にとって、情報収集に多くの時間が費やされることも是正可能です。自治体自身が情報編集を行うことが難しいのであれば、災害情報支援のNPOなどと連携した編集もあり得るでしょう。

 また、最近急速に普及しているiPadなどのタブレット端末を域外被災者への必須支給品とすることも意義を持つと考えます。容易に持ち出せ、携帯電話回線接続ではない無料利用可能なwifi接続を持ち、従来型のPCに比べ安価で、指で画面に直接触れて操作することで高齢者等にも使いやすいとされるタブレット端末は「いつでも・どこでも・だれでも」端末により近づいたものとして評価することが可能です。域外避難者が、そうしたタブレット端末を持ち、かつ、その操作方法を短時間で習得できる機会を得たうえで、先に述べた域外避難者向けに編集された情報の集約があれば、現状よりも域外避難者にとっての情報保障は前進すると考えます。

 webの持つ双方向性や多方向性は、自らが必要とする情報を受け身で待つのではなく、選別して積極的に把握するためにも有効です。ほとんどのタブレット端末にあらかじめインストールされているtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアによる情報取得の可能性も含め、検討する価値があると考えています。
  1. 2012/02/07(火) 09:17:32|
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河井孝仁

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