河井孝仁のシティプロモーション日記とか

北九州市のシティプロモーションから行政の役割を考える-『広報会議』2011年5月号

北九州市は、全国都市会館にシティプロモーション首都圏本部を設けるとともに、市役所本庁企画文化局内にシティプロモーション部を設置するなど、積極的なシティプロモーション施策を展開しようとしています。

 一方で、九州新幹線の全線開通及び博多駅への大規模商業施設の立地などは、北九州市を目的地から経由地に、さらに線路上だけの通過地にしてしまうという危惧ももたらしています。むしろ、北九州市の積極的なシティプロモーションへの取り組みも、こうした思いから生まれていると考えられます。

 そのため、北九州市では自らを、交流客にとって通過したくない場所、目的としたい場所にするため、多くの施策が行われています。そのなかには、多くの消費を伴う宿泊を誘うための施策もあります。NPO法人北九州青年みらい塾が主催し、市企画文化局に事務局のある北九州市にぎわいづくり懇話会が共催、協力を行うナイトツアーもその一つです。季節ごとに行われるナイトツアーは、北九州市の各地で、観光施設の観覧と夜の商店街や飲食店街めぐりを組み合わせながら実施されています。

 また、北九州市では「角打ち(かくうち)」と呼ばれる酒屋の店頭で酒を飲む文化があります。この角打ちをナイトツアーに組み込み、交流客への紹介や体験を奨める取り組みも、地域の文化を基礎にし、夜間や飲酒によって宿泊に繋げるシティプロモーションの一環として興味深いものがあります。

 産業都市としての歴史を持つ北九州市の資産を活かした、工場夜景を観光資源として訴求する取り組みも夜間というつながりを持っていると言えるでしょう。

 北九州市シティプロモーション部は、これらの観光振興に止まらず、交流客に加えて定住者の増加を重要な目的として、北九州の地域ブランド構築に向けた取り組みを進めています。2008年度には北九州市ブランド戦略会議を立ち上げ、2010年6月には同戦略会議によって「北九州ブランド構築に向けての提案(報告書)」が提出されています。そこでは「北九州市と聞けば、多くの人が良いイメージを抱き、北九州市への期待やあこがれといった思いを抱かせるような北九州ブランドの構築に向けて、今後、北九州市が取り組むべき方向性とプロモーションのあり方を検討」したと述べられています。そこでは、市民が自らの地域を十分に知り、積極的に内外に向けて自慢したいと思えるための取り組みが期待されています。

 この一環として興味深いものに「北九州市ふるさとかるた」があります。郷土カルタは多くの地域で取り組まれているものですが、北九州市では北九州市にぎわいづくり懇話会が主催し、北九州市が後援しています。各区で小学校低学年・高学年に分かれて予選を行ったうえで、小倉城で頂上決戦を行うという大きなイベントとして実施されています。頂上決戦では、各予選会を勝ち抜いた18チームによるグループ別の総当たり戦、グループ上位によるトーナメント戦を勝ち残った2チームによって、天守閣で決勝戦が行われるというものでした。

 北九州市ふるさとかるたの読み句には「鉄の街、日本を支えた溶鉱炉」「人情が旦過市場の隠し味」「雲の峰シュガーロードの松並木」など北九州を知り、自慢する内容に溢れています。

 カルタというメディアのもつ親しみやすさを考えれば、北九州全体を対象としたものではない、各区やもっと狭い範囲で、それぞれの郷土カルタを作るという試みも興味深いと考えます。それらが地域の発見や愛着確保への機縁となる可能性も大きいのではないでしょうか。

 北九州市のシティプロモーションには、行政施策ではないものの結果的にそれを下支えする、市職員自体を魅力ある存在とする動きもあります。「北九州市職員芸人バンク」と言う、物まねやバンド演奏などの特技を持つ北九州市役所の職員有志多数による一座は、多くのイベントなどにボランティアとして参加しています。そうしたイベントでは、行政施策や地域の課題解決を親しみやすく、分かりやすく伝えてもいます。

 2009年に開かれた第44回年長者の祭典では、市長が挨拶で北九州市職員芸人バンクに触れるなど、行政としても認知した活動となっています。この北九州市職員芸人バンクのリーダーでもある愛甲秀則シティプロモーション部長が述べられた「魅力ある行政職員」の意義はシティプロモーションという地域魅力の発信の基礎として小さくない意味を持っています。人が育つためには、現場での共感→共感の言語化→言語化された思考の共有→共有された思考の現場での適用→現場での新たな共感→…という流れが求められます。北九州市職員芸人バンクが行う「現場」でのパフォーマンスが、その契機を作っていると考えることもできるでしょう。

 政令市である北九州市は各区においてもまちづくり推進課などが核になって、区における魅力訴求をそれぞれに行っています。例えば小倉北区では、区内のロールケーキ好きの女性たちなどが立ち上げた小倉ロールケーキ研究会が、ロールケーキの日6月6日を中心に、ロールケーキに関わるイベントを実施しています。地元の特産品を用いたり、小倉スウィーツ物語という冊子を発行したり、テーマソングを作ったりなど、ロールケーキを通したまちおこしを積極的に行っています。

 小倉のロールケーキについては発祥の地などの優位性はありませんが、シュガーロードと言われる長崎街道の起点としての小倉を押し出す「物語化」を行っています。既存の長崎カステラ、佐賀の丸ぼうろ、小城の羊羹などの評価を利用した発想として注目できる取り組みです。

 また、このロールケーキ研究会が、行政が主唱して立ち上がったものではなく、地域メディアであるフリーペーパー「リビング北九州」編集長が会長となり、市民とともに主導して設立したものであること、そうした民間主導団体に着目して小倉北区まちづくり推進課が支援をしていることは目を惹きます。

 そもそも、シティプロモーションにおける行政の役割とは何でしょうか。先に述べた北九州市の取り組みからうかがえる「地域の発見・連携」「人の育ちへの支援」に加え「活動の評価によるシティプロモーション全体のPDCAサイクル回転」がその役割であると考えます

 地域の発見・連携は、上からの目線で出来ることではありません。いわば「ご用聞き」のように地域内を訪ね、同じ行政内部でも可能性のある取り組みがあるかを伺い、政令市などであれば各区での動きに広いアンテナを向けることによって可能になります。これらを、どのように「仕組み」化するのかが問われることになります。

 人の育ちへの支援については、既に述べた、現場での共感→共感の言語化→言語化された思考の共有→共有された思考の現場での適用→現場での新たな共感→…という流れをシティプロモーションという場で可能にする仕掛けや戦略が求められます。

 もうひとつ、活動の評価によるシティプロモーション全体のPDCAサイクル回転に触れる紙幅がなくなりました。次回にも事例を検討しつつ、考え方を提示したいと思います。
  1. 2011/06/01(水) 08:21:40|
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河井孝仁

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