河井孝仁のシティプロモーション日記とか

地域のクリエイティビティを支えるメディア-美少女図鑑 『広報会議』2010年10月号

 前号に引き続き、東海大学文学部広報メディア学科河井ゼミナールでの研究を紹介しつつ、その内容を深めて、考察していきたいと思います。

 河井ゼミナールで行われているグループ研究の一つに「フリーペーパー『美少女図鑑』の地域にとっての意義」を明らかにしようとする取り組みがあります。美少女図鑑は、2002年に(株)テクスファームが新潟で創刊した「新潟美少女図鑑」を嚆矢とするフリーペーパーです。現在は東京都を除く46都道府県で展開されています。一つの県に複数の美少女図鑑がある地域も見受けられます。テクスファーム、そのグループ企業が発行している地域もありますが、多くはテクスファームとのライセンス契約により、地元や他都市の企業が、各地域で発行を行っています。札幌美少女図鑑、群馬美少女図鑑など、それぞれの地域名を付けた○○美少女図鑑という名称になっています。フリーペーパーでありながらオークションサイトで取引されるなど、強い人気を持っていることでも注目されています。

 紙面の内容は、それぞれの地域の若い女性が、ヘアアーティストやネイリスト、メイクアップデザイナー、ファッションデザイナー、フォトグラファーなどのコーディネートにより、多様な美しさを示す被写体=美少女となった写真を中心としたビジュアルなものです。美少女はスタジオだけではなく、その地域の風景の中で美しい、かっこいい姿を撮影されています。

 河井ゼミにおける「美少女図鑑」研究において注目するキーワードに「クールローカル」があります。この言葉は、テクスファームの企業理念を示したWEBページに記述されています。そこには「テクスファームグループは『COOL LOCAL』、『REDISCOVERY LOCAL』をスローガンとして、 地元クリエイターによる高付加価値コンテンツの創造で地域のブランド化を促します。クールローカルの創造こそが、地域ブランディングへの近道なのです。」(注)と書かれています。テクスファームでは、このクールローカルの発想を、イギリス・ブレア政権時にとられた国家のブランド化を図るクール・ブリタニア政策から援用したものだと述べています。

 その意味では、美少女図鑑が訴求しているものは、地域の少女が持つ美しさ、クールさにとどまらない、いや、むしろそれ以上に、地域のクリエイターの力だと考えられます。地元にも、こんな美しい、可愛い、かっこいい女の子がいるということとともに、地元にも女の子を、こんなに美しく、可愛く、かっこよくできるクリエイターがいるということになります。さらに、クール・ブリタニアを想起するなら、そのようなクリエイターが存在する地域のイメージを「クール」という言葉によってブランド化しようとする試みだとも考えられます。

 地域、いや東京・中央に対する「地方」は、従来、空気のいい緑溢れる自然や、「田舎」ならではの優しさ、地元産品を生かした郷土料理といった、「ふるさと」としての観光イメージを訴求することが多くあったと考えます。こうしたあり方は、東京・中央にとっては、魅力になり得たかもしれません。しかし、その地域に住む若者にとっては、必ずしも好意的に受けとめられてはいなかった可能性もあります。「かっこいいものは東京・中央にある。地元はクールとは隔たった場所だ」との認識が地域の若者のなかにあったとすれば、美少女図鑑は「ローカルにクールが存在する」という宣言として受け入れられたのではないでしょうか。それを「私の住むこの地域には、ローカルをクールとして認識させる力があった」という気づき、自信の芽生えとして述べることも可能だと考えます。

 リチャード・フロリダは『クリエィティブ組織論』などの著書で、新たな経済発展には、クリエイティブ・クラスという、新しいアイデアや技術、コンテンツの創造によって、経済を成長させる機能を担う知識労働者層の集積が必要になると述べています。ローカルにクールが存在していることを顕在化させる、地域の多様なクリエイターを、こうしたクリエィティブ・クラスとして育てていくことの重要性は、ここからも補強されます。

 しかし、フロリダは、クリエイティビティを担う存在を職業や階層として意識していると考えられます。それに対し、美少女図鑑は、ローカルという地域がクールを築くという発想を可能にします。クリエイティブ・クラスではなくクリエイティブ・ローカルという思考です。これは、大阪市立大学佐々木教授が述べる「創造都市」という考え方と通じたものがあります。佐々木教授は、総合研究開発機構の伊藤理事長との対談において「創造都市(クリエイティブ・シティ)」とは、市民の活発な創造活動によって先端的な芸術や豊かな生活文化を育み、革新的な産業を振興する「創造の場」に富んだ都市」と定義しています。この発想を用いるならば、美少女図鑑は創造都市を生み出す重要なツールとなると考えます。

 では、多くの地域がクールを地域イメージとするのであれば、他地域との差別化を求めるブランド化とは矛盾するのではないかとの意見もあり得るでしょう。それに対しては、この連載の初期に紹介した、長野県塩尻市が策定した地域イメージのブランド化戦略の一端である、塩尻cuisineを参考に考えたいと思います。

 塩尻cuisineは、地域の産品である高原野菜や、野生動物の肉を利用したジビエ料理、「さるなし」などの自生果物を利用し、さらに特産であるワインを組み合わせ、それらを地域の工芸品である木曽漆器に盛り合わせるなどして提供されるものです。長野県内に在住する著名なシェフによるレシピが魅力ある料理をつくりだします。また、塩尻cuisineを作り出していく過程ではレシピの公募も行われ、市民の創造性を尊重する方法も活用されました。

 連載の初期に塩尻cuisineについて記したときには、これらが地域の魅力を編集したものであると提示しました。特に、個々には決定的な魅力までは持てていない多様な素材を組み合わせることで、差別的優位性をつくりだすこと、それをマーケティングの考え方を重視しつつ的確に訴求すること、継続的に高品質なものを提供することで信頼を確保していくことの重要性を述べました。ここでは、この組み合わせる力、編集する力を、創造性・クリエィティビティとして読み直してみましょう。

 そうであれば、塩尻cuisineの訴求するものは、地域産品の魅力だけではない、地域の持つ創造力であるということができます。美少女図鑑が訴求する地域の持つクリエィティビティと重ねて考えることができます。地域の持つ創造力が形にしたものが、美しい、可愛い、かこいい少女であり、美味しい、魅力ある塩尻cuisineであるということもできるでしょう。地域の魅力をつくりだし、訴求するには創造性がきわめて重要です。地域に多彩に存在する、そうした創造性、クリエィティビティを発掘し、気づかせること。それがクールローカルを創ります。地域イメージとしてのクールが重複するとしても、そこから現れる表現形は多様です。それらをどのように編集し、差別的優位性を与えることができるのか。地域の創造性の発掘に基づく、次のステップが地域イメージのブランド化を可能とすると考えます。
  1. 2010/12/30(木) 19:39:24|
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河井孝仁

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