河井孝仁のシティプロモーション日記とか

屋外広告が創るまちのデザイン-『広報会議』2012年6月号

 屋外広告物法という法律があることを知っているでしょうか。まちなかにある看板についての法律です。屋外広告物法は、その第一条に「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示及び屋外広告物を掲出する物件の設置並びにこれらの維持並びに屋外広告業について、必要な規制の基準を定めることを目的とする。」と書かれています。いかにも法律のことばらしく、なんとも頭が痛くなるような文章ですが、つまるところ、看板と看板業者さんを規制する法律のようです。

 ただ、この法律については2004年に改正されたときに、それまでなかった「景観の形成」ということばが加えられたことで、規制だけではなく誘導という方向が生まれたと指摘している専門家もいます。渡辺達三さんという方は2009年に書かれた論文で「広告物はそれ自体、『詩的機能』の増進を図る等、魅力的なものとなるばかりか、その参入によって構成される景観全体の質の向上に寄与するものでなければならない。」とおっしゃっているほどです。

 さて、屋外広告は、本連載のテーマである「地域における広報」にとっても重要な意味をもつと考えます。広報というと、どうしても新聞、テレビやラジオ・雑誌などのマスメディア、自治体や企業などの広報紙、ホームページ、最近ではソーシャルメディアというしくみなどが思い浮かびますが、看板や貼り紙もまちのなかで多くの意味を伝えています。

 近頃はデジタルサイネージと呼ばれる、インターネットなどとも親和性のあるメディアも新たな看板として、私たちの目を惹いています。

 とはいえ冒頭に述べたように屋外広告物は規制される対象でもあります。規制されないと、訴求したいものや訴えたい思いを持っている人々は次々とコントラストの強い色合いの看板を貼り、巨大な看板を据え、目立つことを第一義にした看板を立てていく可能性があります。そうなれば、まちのなかに看板があるのか、看板のなかにまちがあるのか、わからなくなります。私たちの頭も目もチカチカしてしまうでしょう。

 では、行政に規制してもらえれば、それだけでいいのでしょうか。行政の役割も重要です。実際にも、行政の担当者は、違反している看板を日常的に確認し撤去や是正を指導したり、屋外広告物業者向けの講習会を開催したり、「屋外広告の日」に一斉に違反広告物を取り除く作業を行ったりしています。しかし、違反看板がとても多い状況はなかなか変わりません。こういう状況が続くと、行政からの指導に応じて看板を取り外した業者は不公平感を抱くようになります。また、看板業者もたいへんです。行政からは厳しい指導を受け、一方で広告主からは目立つことを求められて板挟みになっています。

 こうした状況の突破口の一つとなる考え方に「広告景観」という発想があると考えます。はじめに紹介した渡辺さんの言う「(広告物は)その参入によって構成される景観全体の質の向上に寄与する」という部分に関わる考え方です。

 この広告景観という考え方に基づいた施策をしている自治体に兵庫県西宮市があります。西宮市では「良好な広告景観の形成をめざして」という副題を付けられた『広告物景観ガイドライン』が定められています。ガイドラインには「さらに望ましい広告景観の考え方や配慮すべき事項、目安となる基準等を提案する」と書かれています。

 ここで注目したいのは、このガイドラインが行政によって一方的に決められたものではないことです。2010年度に行われた西宮市屋外広告物景観等調査を基礎に、学識経験者、市民一般公募、屋外広告業界代表、関係行政機関を構成員とする屋外広告物審議会が必要性を提案し、何回もの意見交換によってつくられたことが重要です。ガイドラインの内容は広報誌にも掲載され、市民個人個人からの意見も寄せられました。

 そうです。「景観」という考え方は常に「見る人」の存在があって成立する考え方です。そこには市民がいます。多くの屋外広告についての行政施策は規制する行政と規制される看板業者という二者関係だけで運用されていたように思います。景観という発想をすることによって、そこに市民が現れてくると考えられます。

 西宮市で立ち現れてきた市民は「西宮まちなみ発見クラブ」という姿を見せます。西宮まちなみ発見クラブは、市のウェブページによれば「景観に関する情報の共有や意見交換を通じ、西宮のまちなみについて考え、美しい西宮のまちなみづくりを目指すクラブです。まち歩きや企画会議を通じ、自分たちの住むまちの、知っているようで知らないことなどについて学習したり、情報発信をしたりしています。市内在住・在勤・在学の方がメンバーになっています。現在第6期を迎え、メンバーのみなさんが自主的に企画・進行を行い、市が事務局としてバックアップする形で活動しています」と紹介されています。

 2011年度には、こどもまちなみ発見隊の企画・運営、まちづくりセミナー・勉強会の企画、景観写真展の企画ほか、各種イベントの企画・運営を行っています。こうした西宮まちなみ発見クラブの活動を見える化することを意図して、事務局の西宮市が毎月「まちなみ発見クラブ通信」を発行していることも、多くの市民に景観、広告景観を自分事として考えてもらうために有効だと考えます。

 西宮市には、美しいまちなみづくりにひと役買っている建築物や広告物、活動などを表彰し、その輪を広げていこうとする都市景観賞があります。この選定においても、従来は有識者などの選考委員によるものだけだったのですが、2010年度に行われた第5回都市景観賞からは、西宮まちなみ発見クラブが独自に市民特別賞「まちなみ発見クラブ賞」の選考を行うようになっています。

 西宮市都市景観賞には屋外広告デザイン部門が設けられています。このことは広告景観という発想からも十分に意義を持つものです。他の多くの都市が「都市景観の形成に寄与する建物や活動を表彰. 風格のある美しいまちづくりと市民文化の向上に資する」(福岡市)とか「自然環境を生かし、歴史的な文化遺産を継承しながら、人間のふれあいのある都市、洗練されたまちづくりに寄与する建築物」(長岡市)などとしていることに比べても特徴的です。まちなみ発見クラブ賞でも同様に屋外広告デザイン部門があります。このことも市民を良好な広告景観形成の当事者とすることに役立っていると考えます。

 行政と看板業者という二者に限定されていた関係のあいだに市民が入ってくることは、業者にとってもプラスだと考えます。行政と広告主の間で板挟みになっていた業者が、広告主には「訴求対象である市民に評価されない屋外広告物を制作することはかえって不適切だ」と述べることを下支えし、行政に対しては「自らがつくった広告物が市民に評価されているのだから、より的確な規制を検討すべきだ」と述べることを可能にします。ひいては、渡辺達三さんのいう「詩的機能」を持った広告物を制作できる能力を持った業者に力を与えることができると思います。

 まちに暮らす人たちが、まちの当事者になる。当たり前のことではありますが、小さな工夫を重ねることで、そのことが実質化していくのだろうと考えています。
  1. 2012/07/03(火) 21:45:40|
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河井孝仁

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自著(単著・共編著・執筆分担)

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