河井孝仁のシティプロモーション日記とか

塩尻市ブランド構築事業の展開 『広報会議』2010年12月号

 前々号で塩尻市が取り組む塩尻キュイジーヌについて紹介しました。その後、筆者は塩尻市ブランド推進室を訪れ、積極的なブランド構築について伺いました。そこでの知見を踏まえ、地域イメージのブランド化にとって必要な要素を考えていきます。

 塩尻市は地域産品のブランド化ではなく、地域イメージのブランド化を目的としています。しかし、その基礎には秀でた地域産品であるワインがあります。ワインをフラッグシップとしながら、ワインだけに終わらないブランド形成が目指されています。ワインの品質を高め、国際的な博覧会への出品、受賞などで評判形成を行う、それと並行して、ワインを連携の要として地域の魅力発見・創出を行おうとしています。その具体的事例が塩尻キュイジーヌです。塩尻キュイジーヌは、長野県茅野市の著名なシェフである藤木徳彦氏がアドバイザーを務め、塩尻産の素材を中心として作られる料理です。そこにはフラッグシップとしてのワインが前提され、ワインが引き立つ料理として考えられています。

 塩尻キュイジーヌは、藤木シェフというブランドとも連携を行っています。塩尻キュイジーヌは2009年にJR長野駅構内に、藤木シェフが腕を振るう塩尻ワインエキナカビストロとして期間限定オープンさせることで認知を図りました。2010年1月には7日間、JR塩尻駅構内のMIDORIという喫茶・軽食店に藤木シェフを迎えエキナカビストロを開催しました。期間中、計600人ほどが来客し、行列をつくるほどの満席となったとのことです。

 自らの魅力を的確に訴求するため、既存の他ブランドを積極的に活用するという発想です。ただし、既存の強いブランドの周辺に位置するだけであれば、十分な効果を上げません。塩尻キュイジーヌそのものとしても、藤木シェフの料理だけを魅力とするのではなく、地域産品を素材とすること、塩尻駅を舞台とすること、木曽漆器のランチョンマットを用いることなど、塩尻の地域イメージを多面的に組み合わせ、伝えようとしています。

 このことは、塩尻市が進める信州塩尻ふるさと便の商品開発にも関わります。信州塩尻ふるさと便は、エキナカビストロでのメニューを基礎に藤木シェフが考案した「塩尻産黒毛和牛と赤ワインで煮込んだハヤシソース」と「信州産牛ホホ肉の塩尻産赤ワイン煮込み」。それに、塩尻市のワイン製造業者5社の赤ワイン「塩尻メルロー」「ミュゼ・ドゥ・ヴァンメルロー」等のうち1本を詰め合わせたものです。商品には開発のストーリーが書かれた冊子も同封されます。ふるさと便は多くの問い合わせを受け、順調に販売されています。

 塩尻市は、この信州塩尻ふるさと便の人気も踏まえつつ、市制50周年を契機にA、B、Cコースの3種のふるさと特別便を設定しました。この特別便では藤木シェフというブランドから自立し、塩尻の地域魅力をより積極的に展開しようとしていることが見て取れます。Cコースは塩尻キュイジーヌ2種に市内8ワイナリーから特別にキープしたワイン各1本をセットした8万円のものです。ここでは、塩尻キュイジーヌよりも塩尻産のワインが主役になっていることは明らかです。A、Bコースの価格は100万円。Aコースの内容は、市内4業者が一樽ずつ提供する「塩尻産メルロー樽ごとワイン」、できのよい2009年産のぶどうを用い、瓶詰めにして300本にあたります。Bコースは木曽の高級漆家具である戸棚、テーブル、椅子の6点をセットにしたもの。

 Aコースは塩尻の地域イメージブランド化を図るためのフラッグシップであるワイン。それも市内にある4つの業者からそれぞれに販売されることは、塩尻市の持つワインの豊かさを示すことにつながります。Bコースは塩尻の地域イメージを展開させていくための漆家具。合併した元の楢川村が漆製品の主な産地であることも重要です。地域イメージを散乱させがちな市町村合併を、塩尻の地域イメージに包含させつつ、むしろ地域魅力の豊富化に役立てています。A、B、Cの各コースを眺めれば、塩尻市としての魅力を多面的に訴求していくことが周到に意識されている商品構成です。

 藤木シェフというブランドも活用した塩尻キュイジーヌで地均しを行い、物語をつくったうえで、満を持して目を惹くふるさと特別便を提示することにより、マスメディアへのパブリシティ効果も高まります。ふるさと特別便は地元メディアはもとより日本経済新聞の全国版にも掲載され、塩尻の認知獲得や興味惹起に役立ちました。「新聞を見て」との顧客からの問い合わせ電話もありました。結果として、塩尻産メルロー樽ごとワインは多くの購入希望者を得て、選考により4セットとも購入者が決まりました。購入できなかった方がワイン業者へ直接に追加販売の可能性を問い合わせたことさえありました。また、木曽高級漆家具6点セットは地元の方が購入しました。塩尻市の進める、まず市民に地域の魅力を理解してもらうという点からもいい形になったと言えるでしょう。

 市民への地域魅力訴求という意味では、塩尻キュイジーヌのデザートして考案されたレタスアイスについても述べたいと思います。レタスアイスは、塩尻市洗馬地区で生産される美味しいレタスをモチーフにしてつくられました。2008年に商品開発、販売をしたあと、さらに市内で試食会を実施し、味の改良を重ねました。このレタスアイスは地元イベントでも積極的に提供されています。現在までに1万個を売り上げています。塩尻キュイジーヌという形でいったん集約した地域の魅力を、各々に魅力を増しつつあらためて放っていく仕組みです。塩尻市を訪れた際に、市内喫茶店で働く女性に「塩尻の魅力は?」と伺いました。女性はすぐに「ワインですね。」と述べた後「それにレタスとかもいいんですよ。他にもいろいろあって、住みやすいまちです」と答えられたことは強い印象が残りました。

 一方で、市外への魅力訴求にも興味深いところがあります。現在、塩尻市は主なターゲットを中京地区、名古屋に置いています。そのうえで、名古屋で実施した塩尻産ワインパーティでは名古屋市内のシェフが愛知の素材を用いて作った料理も振る舞われました。単なるターゲットではなくパートナーとして連携を図る仕掛けです。参加者は単なる顧客ではなく共に魅力を創る人となります。名古屋への注目はJR中央本線を使えば2時間弱で着くというアクセスが理由であるとのこと。このことは単なる商品販売ではない、交流に焦点をあてていることを示しています。まず、ワインをフラッグシップとした地域の魅力を名古屋市内で訴求し、共に魅力を創る人として連携可能なパーティなどを実施し、参加者や口コミ、パブリシティによって関心を持った人々を塩尻市に呼び込むことを期待する。

 ワインを筆頭に、レタスや漆器など多くの魅力を持ち、住みやすいまち塩尻市が地域イメージのブランド化を図る過程とはどのようなものでしょうか。まず、地域のフラッグシップであるワインを高品質化する。あわせてワインほどの訴求力はないものの十分に魅力ある地域素材を組み合わせた塩尻キュイジーヌを外部ブランドも活用して押し出す。これによってワインもまた魅力を増す。いったん編集した塩尻キュイジーヌから多様な魅力を取り出し、個々に自立させつつ魅力を訴求する。それを再びワインパーティなどで組み直し、塩尻というイメージを強く訴求し、行ってみたいまちとして提示する。これ以外にも多彩な展開を見せつつ塩尻のシティプロモーションは確実に段階を上っていると考えています。
  1. 2011/02/09(水) 16:25:29|
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河井孝仁

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自著(単著・共編著・執筆分担)

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