河井孝仁のシティプロモーション日記とか

あいちトリエンナーレ2013

昨日は名古屋へ。あいちトリエンナーレ2013-Awakening 揺れる大地 場所、記憶、そして復活-の3会場を梯子してきました。
愛知県美術館、名古屋市美術館、納屋橋会場の東陽倉庫テナントビル。現代美術を堪能してきた印象です。
副題にもあるように、東日本大震災及び福島第一原発事故の影響を強く意識させられる作品が数多く。

ヤノベケンジ作品は事前に知っていたのですが、アトムスーツ(鉄腕アトム型放射線防護スーツ)を着たヤノベが、チェルノブイリ原発事故によって荒廃した幼稚園で、汚れた人形を拾い上げる写真の衝迫力は足を止めさせられました。
そのうえでの「サンチャイルド」なのですから。

《「地球・爆―Earth Attack」第1番》はコラボレーションによる作品ですが、文章を重ねたり、画に塗り込んだりなど、「状況」への違和感を作り出すことに成功していたと思います。

コーネリア・パーカーの廃棄された数多くの金管楽器を扁平に加工したうえで、円形に宙に吊し、中心からの光によって壁に楽器の影をつくる作品は、「時間」と「記憶」を再構成しているかに見えて、強い印象が残っています。

宮城県気仙沼のリアス・アーク美術館による出品は東日本大震災においての「言葉」を改めて検討するもの。ガレキ、未曾有、想定外、などなど。重要な内容です。

納屋橋会場の下道博之の「境」に注目した写真と言葉とモノの展示も意識化という意味での美術の力を示していると思います。

映像作品も多く、クリスティナ・ノルマンによる、エストニアの公園にあるロシア兵の像をめぐる作品や、ニラ・ペレグのユダヤ教の祝祭日に町が閉鎖されていく様子を示す作品は、綺麗に整理できない、政治的・宗教的な「一筋縄ではなさ」を強く意識させます。

芸術のもつ「異化」オストラネーニエの力を浴びた一日でした
  1. 2013/08/16(金) 08:36:27|
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行政広報の評価について ―広報しまだに寄せて- 広報会議2012年12月号

 広報評価には2つの側面があります。一つは、広報のための仕組みやコンテンツがどれほど効果的なものになっているかを検討する戦略評価、もうひとつは、実際に成果をあげたのかを確認する実績評価です。行政広報に限らず、そのいずれについても広報の評価は簡単ではないと思っています。

 先日、静岡県島田市を訪問し、意見交換を行いました。島田市の行政広報をどのように評価できるかを考えるための打合せです。今後も、島田市で行政広報を担う皆さんとは議論していくつもりですが、その第一回としての取り組みです。

 まず、行政広報にとって最も重要な媒体である広報紙、島田市では「広報しまだ」、その8月号、なかでも特集ページを確認しました。行政広報紙の特集ページは多くの場合「政策広報」のために使われています。政策広報は、行政サービスのお知らせというより、地域での課題や可能性を示して、市民の関心を惹き、課題解決やビジョン推進への参画を得るために行われます。市民が選びだしたた首長が、その負託をもとにして今後の自治体運営・地域運営の方向性を明確にし、改めて評価を受ける場でもあります。

 広報しまだ8月号の特集は「資源ごみの分別」です。島田市の広報担当者はこの特集のターゲットを、経済観念のある主婦層として位置づけていました。主婦がごみの分別に強く関与していることに注目したターゲティングだと評価できます。また、多くの主婦が支出の管理を中心として家計を采配しているとの前提に立てば、経済観念への着目も理解できます。

 広報を戦略的に評価する、広報の実績を評価するには、4つのポイントがあると考えています。①費用対効果(コストパフォーマンス)、②対象者の行動変容、③協働の充実、④関わった人々の成長の4点です。
それぞれについての詳しい説明は、別に改めて行いたいと思います。ここでは2点目の対象者の行動変容について考えていきます。対象者の行動変容については、AISASと呼ばれる(株)電通が登録している考え方があります。認知→関心→探索→実行→共有の流れです。

 しかし、認知→関心→探索→実行→共有という行動変容が、自然のうちに対象者に起きるわけではありません。そうした動きを促進するためのメディア活用が効果的に行われているかを評価するためのモデルが必要です。そこで、(L)AISLA+Sというメディア活用戦略モデルが意義を持ちます。(傾聴)・認知獲得→関心惹起→探索誘導→着地点整備→実行促進+情報共有支援のための各メディア活用が、全体的な戦略として的確かの評価を行うためのモデルです。

 このモデルを活用して広報しまだの資源ごみ分別特集を確認していきました。島田市では広報紙は全戸配布が前提となっています。大都市では新聞折り込みや新聞広告として広報紙を発行しているところもありますが、それに比べて島田市などの全戸配布方式は認知獲得にとって有効な手段と言うことができます。

 次に十分な関心惹起が行われているかを検討しました。対象者の関心を惹くためには、伝えられた内容を対象者が「自分ごと」と考えることが必要になります。この点で、広報しまだ資源ごみ分別特集は十分に考えられた内容となっています。特集の見出しは「一億円のリサイクル」。経済観念のある主婦層というターゲットに響く見出しになっています。日常のごみ分別が一億円という巨額な金額につながる、このギャップが、日常のごみ分別を担っている主婦には大きな意味を持つと考えられます。また、数字を十分に用いた3つの表は経済観念に長けた主婦への説得力を持ちます。

 広報しまだは多くの広報コンクールで表彰されています。2012年にも公益社団法人日本広報協会が主催する全国広報コンクールで読売新聞賞を受賞しました。対象者の関心惹起を可能とする、この記事にもそうしたコンテンツ制作力が発揮されています。

 関心を惹いた次のフェイズで必要になるのは探索誘導のためのメディア活用が求められます。広報しまだの特徴は、この探索誘導、さらに次のフェイズである着地点整備を、広報しまだ内で完結させようとするあり方です。
それが端的に表れた文があります。「次ページの 『ごみ減量のアイデア』などを参考に、今後も、ごみの減量と資源化にご協力をお願いします。」というものです。確かに「生ごみの7分の6は水分。よく搾れば、ごみが少なくなります。」などの記述が並んでいます。

 一方で関連した内容が書かれているはずの、市の公式ウェブサイトへ導く文章はありません。また、チラシや関連イベントなどの他の媒体への言及も行われていません。こうしたあり方は多くの自治体の広報紙にも共通します。もちろん、対象者の手を無駄に煩わさず、一回で伝えられることはそこで完結させるという考え方は十分に意義があります。しかし、さらに追加の情報が欲しいという対象者のウォンツを刺激し、次の行動を促すことも、地域の課題解決への積極的な参画を促し、そうした人々を見える化するためには意味を持ちます。

 このことは先ほど述べた着地点整備というメディア活用にも関わってきます。着地点整備は関心を惹起した内容について、その詳細を説明する場所を用意するという作業です。公式サイトなどの信頼性のある「場所」と、そこで書かれた内容を裏打ちし発展させるソーシャルメディアなどの「場所」が連携していることが望ましいと考えられます。

 広報しまだ資源ごみ分別特集では、優れた文章表現を駆使することで、広報紙記事で十分な内容を伝え、あわせて自治会長と環境衛生自治推進協会会長の2名に分別の重要性を語ってもらうことで、市が伝える内容の裏打ち・発展を的確に行っています。

 ただ、さらに望むなら、ウェブサイトを用いることでより多くの発展が可能になるでしょう。またイベントなどをソーシャルな着地点とすることで参加者相互の意見交換による裏打ち、発展が期待されます。あるいは、島田市内で市も関わって発行しているフリーペーパーや、コミュニティFMであるFMしまだがそれぞれの視点で、広報紙の内容を裏打ちし、発展できれば、資源ごみ分別を契機にした市民参画が行われやすくなるはずです。

 そうした多様な関係者が関わることで、行動促進=市民のごみ分別を促すこともより行いやすくなります。グループによるごみ減量を見える化し、優秀者を表彰するコンクールなどのゲーミフィケーションの取り組みへの発展も可能になるでしょう。

 情報共有支援のためのメディア活用も同様です。特集記事内には記事に書かれた内容について市民からの意見を募る記述はありません。また市民によるツイートを促すような仕組みの工夫も見あたりません。

 これらは、従来、自治体の広報担当者の仕事だとは考えられてきませんでした。確かに、広報担当の仕事と言うよりごみ問題を扱う環境課の担う部分は多いと考えられます。ただし、だからといって「無理ですね」で終わらせるのではもったいない。広報課が広報紙製作をする課にとどまらず、多くの事業課をコーディネートし、それぞれの広報課題に応じたプロデュースを行う、そうした仕事が、十分な力を持った島田市広報課には期待されると考えます。
  1. 2013/04/04(木) 10:28:04|
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地域魅力のパッケージ化と包「装」 -『広報会議』2012年11月号

 9月15日から来年の2月28日まで「西宮・まちを旅する博覧会2012(西宮まちたび博2012)」が開かれています。兵庫県西宮市と商工会議所、観光協会などをメンバーとする西宮まち旅博覧会実行委員会が主催しています。ガイド付きツアー“西宮まちあるき”や、体験型プログラム“西宮まちなか体験”等によって構成されています。“西宮まちあるき”には「国際精神に基づく教育の聖地 神戸女学院を体感する!」、“西宮まちあるき”には「フードライターと学ぶ『BAR THE TIME』カクテル教室」などのコースがあります。

 9月3日付の日経流通新聞によれば「計90コースあり、9月には酒造会社が並ぶ酒蔵通りを光で演出する『光の宴』も開催、関連事業を含め期間中に10万人の来客を見込む」とのこと。ここで注目するのは90コースという数。昨年度の「西宮まちたび博プレ・みや」でも41コースが行われたようですが、今年は倍増以上となっています。

 西宮と言えば、甲子園や清酒、苦楽園などの高級住宅地が思い浮かびますが、市外の人間にとって90もの魅力はすぐには数えあげられないでしょう。市民にも90の魅力を簡単にあげられる人は少ないと思います。

 こうした、多くのコースを地域の魅力として訴求する先行事例に長崎さるくがあります。2006年に行われた「長崎さるく博06」は、従来は必ずしも広く知られていなかった長崎の魅力を掘り出しました。

 そのことが評価されて、2007年から特製マップを手に自由に歩く“長崎遊さるく”、さるくガイドの説明を聞きながら歩く“長崎通さるく”、専門家による講座や体験が可能な“長崎学さるく”“長崎食さるく”などが実施されています。2007年度には“通さるく”だけで2万人を越える参加者がありました。9月4日に確認した長崎さるくのwebページによれば“遊さるく”で45、通年の“通さるく”で29のコース、さらに9月から12月の期間限定“通さるく”でも5つのコースが設定されています。

 こうして、西宮や長崎の事例を示すと「もともと魅力の多いまちはいいけれど、私たちの地域はそうではない」という言葉が出てくることがあります。

 ここで必要なことは「私たちの地域の魅力はこれこれだ」という思いこみをいったん捨てることです。「この地域の魅力は何ですか?」と問われたときに、「自然」とか「人が優しい」とか「温泉」とか、B級グルメに○○があるとか、あるいは「何にもない」と紋切り型に言うことをやめてみましょう。

 「去年、あの坂の上から見た夕焼けが綺麗だった」「あの路地におもしろい石像があった」「この焼きそばはこんな思いの人々が作っている」というように、個人の経験としてゼロから地域の魅力を考えてみる。各個人がそうした個人的具体的な地域魅力を50、100述べる。そのうえで、多くの人々と意見を交わし、それらを重ね合わせていく。必要に応じ地域の地形や歴史や産物などの専門家を活用して、魅力としての確認を行う。そのうえで、改めて取捨選択し磨きをかけた個人的具体的な魅力をパッケージしてコースという形にする。さらに、それらのコースがどのような年齢、性別、地域、関心領域の人にとって魅力的かを考える。

 そうすることで、41の、74の、90という数の魅力のパッケージがコースとして、お仕着せではない、地域に関わる人々それぞれの自分事になって、できあがるはずだと考えます。そうした魅力のパッケージであれば、ガイドになって案内したいという気持ちにもなるはずです。

 8月に福島県の飯坂温泉に出かけました。福島市の北部に位置し、奥の細道での松尾芭蕉の訪問など歴史のある温泉です。その日、飯坂温泉に居られるのは3時間程度でした。

 福島駅から福島交通飯坂線に乗車し20分余りをかけて飯坂温泉駅に。駅構内では電動レンタサイクルを貸し出し、駅のすぐ脇には芭蕉の像も建っています。私は駅前の観光案内所に伺い「ここに3時間ほど居られるのですが、どのようにすると飯坂温泉をいちばん楽しめますか」と尋ねてみました。

 観光案内所のカウンターに来られた職員の方は、いったん他の職員のいる後方を振り向きましたが、結局「ここにマップがあります」と飯坂温泉の地図「いいざか散策マップ」を私に渡してくれました。地図には旅館、共同浴場、足湯、名所、食事ができる場所などが描かれ、写真も添えられています。しばらく地図を見ていたのですが、観光案内所の方からは特に言葉もなかったので、地図を持って涼しい案内所から日盛りの街に出ました。といっても、どうしたらいいのかわかりません。

 駅に戻り、エアコンの効いている待合室に座ります。マップを見ながら今日のコースを考えました。昼も近いので、まず食事を。昼間から開店している店はあまりなく、なかなか見つかりません。駅の近くに「かつ丼の店十綱食堂」という表示を見つけました。ちょっと食べたいものとは違いますが、わざわざ「かつ丼の店」というのであれば美味しいのではないか地図に印を付けます。

 次は、とマップの表裏をためつすがめつすると「おすすめぶらりコース」がありました。案内所では特に「おすすめ」はしてくれませんでしたが、これがいいかなと確認します。まず松尾芭蕉の足跡を巡るコース。最初は医王寺がスタートです。しかし医王寺が地図に見つかりません。確認すると別の差し込み地図がありました。飯坂線の電車で二つ先の駅まで戻らなくてはいけません。駅を降りてからもずいぶん歩くように見えました。「ぶらり」という印象ではありません。あとは駅前の芭蕉像、鯖湖湯、芭蕉の碑となっています。医王寺を諦めると、鯖湖湯で2時間以上入浴しないと3時間にはなりそうもないと思われました。

 飯坂温泉の明治時代にタイムスリップというコースもあります。最初は十綱橋、土木遺産となっています。ただ、十綱橋そのものの紹介はマップにはなく、なぜ土木遺産なのか不明です。コースでは足湯の「あ~しあわせの湯」と「ちゃんこちゃんこの湯」にも回ることになっています。しかし、なぜ、この足湯が明治時代と関わるのかがわかりません。

 仕方がないので、なんとなく地図に印を付けていき、それをぐるっと回ることにしました。十綱食堂のかつ丼は美味しく、十綱橋から離れたところで伊達一という橋建設に功績のあった方の碑も見つけました。伊達一は最後には身を投げ人柱になるという話の主人公であることもわかり、強い印象を受けました。「【明治時代】にタイムスリップ」というコースのポイントになっていた旧堀切邸は【江戸期】の大庄屋でした。明治の建物も残っていることを知ることができ、再整備が進み、管理者の方の丁寧な対応もいただきました。

 ここまでの飯坂温泉での記録を読んで、どのように思われたでしょうか…。
 飯坂温泉の旅館は老朽化が進んでいるものもあり、廃業した旅館がそのままになっている様子も見られました。しかし、たくさんの魅力も十分にあることがわかります。課題はパッケージ化です。旅行代理店の送客に任せっきりにしてしまうのではなく、散策マップをつくったことは高く評価できます。そのうえで、その魅力をどのように「包み」、多様な期待を持った顧客にあわせて、どのように「包『装』」して渡してあげるのか。これは飯坂温泉だけの課題ではありません。

 それぞれの地域でどのように魅力を掘り出し、パッケージし、包「装」しているか、改めて考えることが必要なのではないか。西宮まちたび博2012を知り、飯坂温泉を訪ねて、そうしたことを思っています。
  1. 2012/12/01(土) 11:54:29|
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公平性とターゲティング -『広報会議』2012年10月号

 8月3日の金曜日に厚生労働省で広報研修の講師を務めてきました。その日の夕方から夜にかけて国会議事堂の近くに出かけました。金曜日ごとに行われている脱原発を求めるデモンストレーションを現場で体感するためです。

 その二カ所で強く意識したのが「国民」あるいは「市民」という言葉です。法学的な意味や公共哲学的な意味での「国民」や「市民」ということではなく、タイトルにも掲げた、公平性とターゲティングということに関連しての思いでした。

 広報を効果的に行うために必要なことにターゲティングがあります。20歳代前半の女性というような性別・年齢や年収などを基準にしたデモグラフィックなターゲティング。千葉県から新宿に通勤している人というような地理的範囲を対象としたジオグラフィックなターゲティング、使用済み核燃料の処理方法が確立されていないために原子力発電所に不安を持っているというような、関心や興味を基準とするサイコグラフィックなターゲティング。

 例えば、富裕層をターゲットに一定のブランドラインを展開し、そうした富裕層が主に利用しているメディアだけを使って広報や広告を行うということは珍しくありません。入会金が100万円以上の会員制クラブが会員向けに発行している雑誌に掲載されている商品と、一冊200円程度のゴシップ誌に掲載されている商品は同じものではありません。数百万円する紳士用時計の広告が200円で買える雑誌に掲載されることはほとんどないはずです。

 一方で、中央省庁や自治体は公平性を重要な行動規範としています。そのためなのか、広報研修などでターゲティングについて説明すると「行政は民間企業とは違い、公平性が必要なのでターゲティングは難しい」と述べる方がいます。あるいは「この広報の対象は誰ですか」とお尋ねすると「市民です」「県民です」「国民です」と言う答えが返ってくることも少なくありません。

 もちろん、行政が公平性を蔑ろにしてはいけないでしょう。多額納税者だけが利用できるラグジュアリーな公民館などは考えられません。また、自治体であれば、多くの施策の対象がその自治体の地理的範囲内に住む人々全員ということも少なくないはずです。

 では、行政が行う広報、広く地域に向けた広報とターゲティングは無関係でしょうか。私はそうではないと考えます。ターゲティングには二つの視点があります。一つは商品ターゲティングであり、もう一つは広報ターゲティングです。

 先に挙げた数百万円する時計はあらかじめターゲットを定めて開発製造されています。広く国民向けに作られているわけではありません。だから、高級会員クラブ誌に広告が掲載されることになります。ここでは商品ターゲティングと広報(広告)ターゲティングは連動しています。

 では、ここで行政広報、なかでも行政サービスの利用を促す広報ではなく、地域の課題を提示し、ともに地域をよりよいものにしていくための参画を訴える政策広報について考えてみましょう。ここで「地域」を「世界のなかの一つの地域としての日本」と考えることもできます、そうなれば自治体だけの話ではなく、中央省庁にも関わる話となります。あるいは政策提言をミッションの一つとする多くのNPOにとっても無関係ではありません。

 政策広報によって「買ってもらいたい商品」は「地域への参画」になります。地域への参画という「商品」は、地域に住むある一定の人だけを対象にした「商品」ではありません。商品ターゲティングは行われていないと考えていいでしょう。では、広報ターゲティングも行わず、広く国民、県民、市民に同様のメディアを使って同様の内容で広報すれば「商品」としての地域への参画獲得はできるのでしょうか。

 ここで、ターゲティングには二つの視点があると述べたことが意味を持ちます。商品ターゲティングは行っていないとしても、広報ターゲティングを的確に行わなければ、その商品を「自分に関係のあること」として考えてもらうことは困難になります。

 別の観点から考えてみましょう。国会議事堂前で行われていた政府に脱原発を要求する活動はとても興味深いものでした。そこでは一人のリーダーがシュプレヒコールをあげ、全員がそれに続いて唱和するという、昔ながらのデモとはずいぶん異なる姿がありました。

 議事堂の最も近い位置では100人程度の人々が大飯原発の再稼働反対を声を揃えて訴えていました。その少し後方では、ここでも100人程度の人々が原子力規制委員会委員長の人事案撤回の声を上げています。道路の反対側ではスピーチコーナーとして様々な人が原子力発電所への不安や危惧を自分の言葉で語っています。福島県から来たという方、国会議員、中学生などがそれぞれ短くない時間をかけて思いを話しています。周囲には、その発言に時々拍手をしながら聞いている人々が何重にもなって発言者を囲んでいます。桜田門の地下鉄駅に向かう歩道ではパーカッションを中心とした音楽が響き、脱原発への思いを絵や文字にした様々な看板が並んでいました。

 こうした場所には、それぞれに声をあげる人、小さな声で唱和する人、チラシを配布する人、ただ黙って立っている人など、それぞれの様子がありました。一定の時間で国会議事堂前から離脱する人もあれば、時間を逐って新しく加わる人も多くいます。また、私は確認できませんでしたが音楽家の坂本龍一さんも別の場所で思いを述べ、それを聞く人々も多くいたようです。さらに、国会議事堂から離れた環境省前でも集会があったとも聞きました。

 これを伝える新聞記事には「主催者は、のべ約8万人が参加としている。警視庁は参加者数を公表していないが、警察関係者への取材では4千人弱だったという。」(朝日新聞8月4日付朝刊)と書かれています。それだけを読めば8万人なり4千人なりが一つのマスとして見えてきます。しかし、既に述べたように、こうした人々、おそらく多くが市民と呼ばれる人々が皆同じ行動をとり、同じ言葉を叫んでいるわけではありません。脱原発という思いは重ねながらも、それをどのように表すのか、何を最も大事にするのかによって、それぞれの異なる「場」を持っていることは明らかでした。

 脱原発という関心をともにする市民であってさえも、それぞれに合った場を求めている。そのことに思いをいたすならば、「地域参画」を市民に向けて広報する際に「市民を対象としているのだから、ターゲティングなど行わずに同じメディアを用い、同じ場を用意すれば、それで足りる」はずはありません。

 20歳女子に向けて「地域参画」を訴求するための広報と、富裕層に向けて「地域参画」に向けた行動喚起を行うための広報と、千葉県から新宿に通勤している人に対して「地域参画」を促す広報は、その内容も、どのようなメディアを利用するのかも異なるはずです。

 対象者の意識変容や行動変容を目的として広報を行うのであれば、その主体が公平性を旨とする行政であっても、国民、県民、市民を一律の広報対象と考えるのではなく、それぞれの属性を持った個人として考えることが必要です。そこから広報ターゲティングの必要性が理解できると考えます。言い換えるなら、行政が広報対象とする「市民」とは、それぞれに異なった属性を持ちながら多様に重なり、漏れ落ちる一人の個人もいない広報ターゲティングの集合体と考えられるはずです。

 8月3日の夜。国会議事堂前から離れつつ、私と逆に議事堂前に急ぐ多くの人々とすれ違いながら、そうしたことを考えていました。
  1. 2012/11/17(土) 15:19:01|
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メディアとしてのイベント・着地点としてのイベント-『広報会議』2012年9月号

 ここのところ、人々の行動や意識を変えていくためにどのようなメディア活動が必要なのかを改めて考えています。メディア活動というとわかりにくいかもしれません。どのようなメディアをどのように利用することで、人の気持ちを一つ一つ進めていけるのかという意味です。

 商品やサービスの購入に向けて、人の行動や気持ちがどう変化するのかについては、多様なモデルが提示されています。E・K・ストロング氏が述べたAIDA(注意→関心→欲求→行動)モデル、S.R・ホール氏が提唱したAIDMA(注意→関心→欲求→記憶→行動)モデル、広告代理店の(株)電通が登録するAISAS(注意→関心→検索→行動→共有)モデル、マーケティング企業である(有)アンヴィコミュニケーションズが示したAISCEAS(注意→関心→検索→比較→検討→行動→共有)モデル、佐藤尚之氏が述べられたSIPS(共感→参加→確認→共有・拡散)モデル。

 それぞれ、商品やサービスの種類、購入場面、インターネットやソーシャルメディア利用の有無などによって、適用できる範囲が異なると考えられますが、いずれも、人の気持ちがどのように動いていくのかという記述モデルということができるでしょう。

 モデルには記述モデルと別に戦略モデルがあります。記述モデルが「どうなっているのか」を示すことに対して、戦略モデルは「どうすればいいのか」を示すモデルということができます。

 AISASもAISCEASも記述モデルだと考えられます。しかし、広告代理店やマーケティング企業としては、そうした記述モデルを基に、企業として何をするのかという活動があるのでしょうから、実は戦略モデル的に利用されているとも考えられます。たとえば、顧客に「貴社の商品はターゲットとなる40代男性富裕層に関心は持ってもらっているようですが、詳細の検索までは至っていないようですね。そこで、我が社の・・・」というコンサルティング活動が行われるのではないかという意味です。

 私は、そうした記述モデルと戦略モデルの混乱(というほどではないかもしれませんが)が起きないように、改めて戦略モデルを提示してみようと思っています。今のところ考えているものとしては、LAISLA+Sモデルがあります。

 LAISLA+Sは傾聴→認知獲得→関心惹起→探索誘導→着地点整備→実行促進に共有支援を加えたものです。 確認していただければわかるように、人の行動や気持ちがどう動くのかというより、どう動かすのか、そのための準備をどのようにするのかという表現になっています。いわば、AISASのような記述モデルの主語が「顧客」であることに対して、LAISLA+Sという戦略モデルの主語は「広報担当者」になっているわけです。

 まず、広報担当者は自らの企業や組織、商品のポジションや顧客の状況を知るための「傾聴」を行う。
 次に、広報担当者は、顧客に商品やサービスを知ってもらうための「認知獲得」を行い、さらに、その商品やサービスが顧客自身に関わりのあるものだという思いを強めてもらうための「関心惹起」の方策をとる。
 その次に、広報担当者は、関心を持った顧客がスムーズに詳細情報を手に入れられるための「探索誘導」を行う。
 広報担当者は、探索に来た顧客を受け止める的確な「着地点整備」を行っておくことも求められる。
 着地点では広報担当者が、顧客が比較・検討し、購入や利用、参加を決断するための「実行促進」の仕組みを用意する。
 そして、広報担当者は、顧客の認知→関心→探索→比較→検討→行動という各段階で情報拡散・共有を行ってもらう「共有支援」の施策をとる。

 つまり、広報担当者が、傾聴→認知獲得→関心惹起→探索誘導→着地点整備→実行促進+共有支援のそれぞれの場面でどのようなメディアを利用するか、何をすることが望ましいのかを明らかにする、考えやすくする戦略モデルを示したいと思っています。

 私は、広報についての研修講師を、中央省庁や、自治大学校のような全国横断的な自治体職員研修組織、都道府県などの広域自治体や、市町村などの基礎自治体、さらにNPOなどでさせていただくことがあります。

 そうしたときに、先に述べたLAISLA+Sモデルを紹介し、広報担当者が、どんなメディアを用いることが適切か、何を行うことが必要かについて意見交換することが少なくありません。また、具体的な広報目的を設定し、その目的を実現するための広報施策をワークショップという形で議論し提示してもらうというパタンの研修もよく行います。

 先日は静岡県島田市で、LAISLA+Sのモデルを利用して「近隣大都市の賃貸家屋に住み、小学生以下の子どもがいて世帯内のいずれもが35歳までの核家族世帯に、島田市への定住促進を図るための広報施策」を4~6人のグループで検討してもらうワークショップを行いました。

 その際に、とても興味深い発表をしてくれたグループがありました。まず、そのグループは島田市内の分譲住宅地にある子ども会と連携して定住促進を図ろうというコンセプトを立てます。それぞれに地方紙や地元放送局を利用したり、列車内の交通広告を用いたりなどのメディア活用を提案してくれました。なかでも、私が思いつかなかった提案としてイベントを着地点メディアと考え、整備するという発想がありました。

 LAISLA+Sにおける着地点整備は、一般的には、行政などの公式サイトによる信頼性を提供できる着地点と、ソーシャルメディアによる個別の内容への信憑性の裏打ちを可能とする着地点の組合せによって成立すると考えています。この際、信憑性の裏打ちについてはブログポータルとか、ツイッターのつぶやきを集めたTogetterや、FacebookなどのSNSの活用が思い浮かぶのですが、島田市のグループでは近隣大都市の若年核家族世帯と島田市内の分譲住宅子ども会の交流イベントを着地点として用意しました。

 確かに、交流イベントでは既に島田市に暮らし、子育てをしている人々から島田市のいいところやまだまだ残念なところを直接聞くことができます。あわせて交流イベント自体に島田市役所が関わっていることから一定の信頼性は確保されています。そうした信頼できる舞台で、個別の状況について聴くことができ情報の信憑性を確認できる着地点メディアとしてイベントを考えることは確かに優れた発想だと思い至りました。

 このことはイベントの成功とは何かということについても考えるきっかけを与えてくれたと思います。イベントを目的として捉えてしまうと、参加者は何人だったか、せいぜい参加者の満足度はどの程度だったかを評価基準として考えてしまいがちです。しかしイベントを着地点メディアとして考えるのであれば、そのイベントが次のステップである参加者の実行促進にどのようにつながったのかを評価する必要が生まれます。

 改めて考えればこと新しい発想ではないように思いますが、少なくとも私にとってはちょっと忘れかけていたことでしたので、とても新鮮でした。

 こういう機会があるので、現場の皆さんとのディスカッションはとてもいい機会です。これからもしばらく、このLAISLA+Sという戦略モデルを鍛えながら、多くの皆さんと地域広報の重要性について考えていきたいなと思っています。
  1. 2012/10/08(月) 09:27:03|
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河井孝仁

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自著(単著・共編著・執筆分担)

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